研究課題
最終年度(平成27年度)には,『秘中の秘』というアラビア起源の西欧中世に広く伝播していた一種の百科全書にかんして,とくに四季による養生術についての12-13世紀のラテン語二種と中世フランス語・オック語による多数のヴァージョンを比較検討した上で,北フランスにおける14世紀における著述家ウスタシュ・デシャンの記した「疫病に罹らないための心得を説くバラッド』が,1340年ころのペストの大流行という世相のもとに成立した『秘中の秘』以来の養生術の集大成であるということを提示しました。3年間にわたる『秘中の秘』の伝播の研究において,従来考慮されてこなかったウスタシュ・デシャンの作品を最終的に,その養生術の行きついた点とみなすことができたのは本研究の成果であると考えます。すなわち,元来は王の統治の仕方を教えるものであったアリストテレスがアレクサンダー大王に宛てた書簡という形式が,その形式を破って短いバラッドの形式に変化したことに注目することができました。また,オック語版,北フランス語(古フランス語)版の多くが写本のまま未校訂である現状をかんがみ,西欧中世における写本の制作と伝播,書体の変遷につき広い識見をもつドイツの碩学ベルンハルト・ビショッフの大著『西洋写本学』(原題は『古典古代と西欧中世におけるパレオグラフィー(古書体学)』)を,歴史学の佐藤彰一氏(名古屋大学名誉教授)とともに翻訳したことも研究の実績のひとつとみなしたいと思います。これは古書体学の解説にとどまらず,西欧中世の文化の成り立ちの基本にある修道院と写本文化の関係を論じた画期的な基本書で,本課題とも密接に関連するものです。
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Etudes Francaises 早稲田フランス語フランス文学論集
巻: 23 ページ: 80-94
Actes du XIe Congres International de l'AIEO, Lheida, 15-21, juin 2014
巻: 1 ページ: 256-270