研究課題/領域番号 |
25370380
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山本 浩司 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (80267442)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 国政研究者交流 / 国際情報交換 / ドイツ文学 / ポストメモリー / DDR文学 / オトフィクシオン / ホロコースト / 空襲と文学 |
研究実績の概要 |
ドイツ同時代小説に見る歴史の「残像」を取り上げる本研究で、2014年度は、証言としての文学、つまり自伝的な語り口についての考察に最大の力点を置くことになった。当初の計画では、時代の生き証人が鬼籍に入るなかで、直接的な戦争体験、ホロコースト体験をもたいない第二第三世代がドキュメンタリー要素に虚構を織り交ぜて作品化し、戦後文学的なモラルの束縛から自由になる様相を具体的な作品に即して見ていくつもりであったが、そもそも自伝的な語りにはつねに虚構性がつきまとうのではないか、という問題に直面することになったのである。 研究代表者は自伝ならびにオトフィクション研究の権威マルティナ・ヴァーグナー=エーゲルハーフ教授と1年間にわたって共同研究を進め、1月にミュンスター大学を訪問して意見交換をした上で、3月にはドイツ学術交流会(DAAD)後援、日本独文学会主催の蓼科文化ゼミナールに招聘した。ゼミナールでは、国内各地のドイツ文学研究者が集まり、総勢50人の規模で様々な視点から活発な議論がなされ、すでに戦後文学(ハントケ、ベルンハルト、グラス、フリッシュ、ヴァイス、ヴォルフら)の自伝的文学のなかにフィクション性が強く刻印されていることが理解できたし、フランスの作家ドゥブロフスキーが提起したものの概念規定が曖昧なままであった「オトフィクション」という概念が、内外の最新の理論的考察を読み解くなかで、広い射程を持つことが明らかになった。本研究のテーマである歴史の「残像」を考える上でも、同概念は大変に有益なので、この概念を今後の核の一つに据えることになるだろう。 同時に研究成果の国際的な発信にも努め、特に韓国のソラクシンポジウムでの発表ではヘルタ・ミュラーの秘密警察小説『狙われたキツネ』や収容所小説『息のブランコ』に見られるオートフィクション性に着目し、ドイツ、韓国の研究者たちと活発な議論を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
連携研究者や研究協力者たちがそれぞれ在外研究や大学にあらたに就職するなどしたために、年初は定期的な研究会の開催が難しくなったが、後半からはメンバーを入れ替えて同時代文学を対象としたワークショップを定期的に開催できるようになった。 ドイツ同時代文学研究の国際的な水準に追いつくべき、積極的に国際的な学会に出席するとともに、訪日の作家や研究者たちとの交流を積み重ねた。5月にはロストックで開催された「ウーヴェ・ヨーンゾンとカノン」を巡る国際会議に招聘されて日本におけるヨーンゾン受容について研究発表(ドイツ語)をし、9月には韓国慶州市で開催された「自伝と擬自伝」を巡る韓国独文学会主催の学会に招聘されてヘルタ・ミュラーにみられる「オトフィクション」について研究発表(ドイツ語)をした。10月にはウィーン大学インナーホーファー、アウグスブルク大学マイヤー教授を招いた国際会議でヨーンゾンにおける写真について研究発表(ドイツ語)をした。2月にはヴュルツブルク大学で開催されたヘルタ・ミュラー学会で、その翻訳不可能性について研究発表(ドイツ語)をした。 来日研究者、作家との交流では、前期にバーゼル大学のホノルト教授と、後期にインナーホーファー、マイヤー教授とワークショップを早稲田大学で開催するとともに、ゲーテインスティトゥート東京との協力で、ハンブルク大学名誉教授レームツマとアルノー・シュミットについて対談、作家ヘンドラーとのワークショップを行なった。 1月にはミュンスター大学に自伝研究の権威ワーグナー=エーゲルハーフ教授とポップ文学の権威バスラー教授を訪ね、3月にはウィーン大学の比較文学科のイワノヴィッチ、日本文学科のハーン氏、国立図書館文学アーカイヴ副所長カウコライト氏、オーストリアアカデミーにビーバー、ブライテンエーダー氏を訪問して、それぞれ現代文学の動向について意見交換した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も連携研究者ならびに研究協力者たちと研究会を若干のメンバーの入れ替えを行ないながら、定期的に開催していく。この研究グループには各大学の博士後期課程、修士課程などの若手研究者も参加してもらい後進の育成にも力を注ぐ。ここで対象とするテキストは、戦争やホロコーストなどいわゆる過ぎ去ろうとしない過去との取り組みを見せているテキストになるが、ゼロ年代に限定せず、いわゆる戦後文学までを射程におき、ゼロ年代の新しい傾向を浮き彫りにすることを目指していく。とりわけ戦争体験と直接に切り結んだ戦後文学の大物たちについて、21世紀の視点から読み直しを行い再評価して行くことを目指す。この関係でこれまで日本の研究にあっては等閑視されがちであったアヴァンギャルド運動にも着目して、特にその牙城であったオーストロアヴァンギャルドについて国際的な共同研究を進めて行くつもりで、現在、ウィーン大学とコロラド大学の研究者と交渉している。 同時に研究成果の発信にも力を入れて、5月にウィーン大学、6月にロストック大学、8月に上海で開催されるドイツ語学文学国際学会(IVG)、9月に北京の対外経済貿易大学、11月に台北で開催される台湾独文学会に出席して成果発表する予定になっている。 来日研究者、作家との学術交流としては、オーストリア大使館が招聘する作家ランスマイヤーとのワークショップなどを企画中であり、ゲーテインスティトゥート東京ともいくつかプロジェクトを共同で行なう準備をしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額が僅少なため不要不急な物品を無理して購入するよりも、次年度に合算して使用したほうが研究計画の実現にとってより有益だと考えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
残額と次年度予算を合算使用して、印刷用の紙代など消耗品の購入に充当する予定である。
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