研究課題/領域番号 |
25370380
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山本 浩司 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (80267442)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クロノトポス / ドイツ現代文学 / オートフィクション / アッサンブラージュ / コラージュ / 想起の空間 / バフチン / アスマン |
研究実績の概要 |
三年目を迎えた本年度は、ドイツ現代文学における過去との取り組みの変質を見ていくにあたり、二つの観点から集中的に取り組んだ。 第一の柱は、長大な編年体形式で時代を時系列に記述するのではなく、特的の空間の中に呼び込んで集中的に描写する「クロノトポス」的な手法である。バフチンに由来し、エーケやエメリヒらの研究者によって、現代文学解読のツールに活用されているこの概念をアスマンの「想起の空間」と絡めて援用することで、転換期の東ドイツ文学(ヒルビヒ、グリュンバイン)に顕著に見られる「ゴミ山」の表象を分析して、これが正史から排除された者たちの救出というベンヤミン的な救済の批評に通じるとともに、美学的にはコラージュやアッサンブラージュといったアヴァンギャルドの技法を体現していることを明らかにすることができた。その成果は2016年8月に韓国で開催されたアジアゲルマニスト会議にてドイツ語により研究発表した。このクロノトポスと関連して、文学と建築の関わりを問う日本独文学会秋季大会(2016年10月、関西大学)のシンポジウム(ドイツ語)に登壇し、グラスやヒルビヒら現代文学における「地下室」の表象をドストエフスキー以来の伝統のなかにおいて問い直す試みもした。 第二の柱は、伝記や自伝に敢えて虚構を混ぜ込んで事実性と虚構性の遊戯のなかに過去を巻き込む「オートフィクション」の諸相である。これについてシュレンドルフ講師(慶應大学)と共同研究を進めた。同講師の音頭によって、2016年5月の日本独文学会春季大会では、招聘したヤン・ジン教授(上海外国語大学)も加わって、オートフィクションの今を問うシンポジウムを開催した。研究代表者はフェリシタス・ホッペのオートフィクション『ホッペ』を女性による自伝がドイツ語で書かれ始めた70年代の自伝と比較しながら考察して、「信憑性」という戦後文学の価値基準の揺らぎを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個人研究としては、おおむね計画通りに進んでいるということができる。国際学会での発表も行い、アジアばかりではなく、ヨーロッパのドイツ現代文学の専門家たちとも有意義な意見交換することができた。2016年秋に開催予定であった国際会議の東京での開催は、予定されていた海外研究協力者たちの都合を調整するのが難しかったということ以上に、研究代表者が2016年9月より本務校で学部長補佐という教務上の大役を担うが決まったため、時間的にも精神的にも、大きな国際的な大会をオルガニゼーションする余裕がなかったということが大きい。ただし、計画書に謳った国際的な発信は、研究発表と公刊論文を通じて計画通りに進んでいるので、大きな問題はない。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べた教務として責務は今年度も続くため、日本での国際会議の開催は断念して、国際的な学会に積極的にエントリーしていくことで、成果発表をしていく。 すでに7月にトリアー大学で開催される「現代詩」についてのシンポジウム、9月にロンドンで開催されるヘルタ・ミュラー国際会議、10月にパリで開催されるヴォルフガング・ヒルビヒ国際会議に出席して、研究成果をドイツ語で口頭発表することが決まっている。また10月末には、台湾の輔仁大学に客員教授として招聘され講義を担当することになっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が本務校にて学部長補佐の職についたため、当初計画にあった日本での国際会議の開催が困難になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
学部長補佐は2年任期野多目同じ状況は2017年度も続くが、今年度は海外での開催される国際会議にて研究発表をする予定であり、次年度使用額はそのための海外旅費に充当する予定である。
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