研究課題/領域番号 |
25370381
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
谷 昌親 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90197517)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 仏文学 / 美学 / 芸術諸学 / 比較思想史 |
研究概要 |
2013年度(平成25年度)は、シュルレアリスムにおいても重要な役割を演じた画家アンドレ・マッソンが、マルチニック滞在においていかに現地の自然から影響を受けたか、またその後に亡命生活を過ごしたアメリカの自然や先住民の文化をどのように自分の創作活動に取り込んだかを調べた。また、そのマッソンが戦後は中国のいわゆる山水画に惹かれていったことも確認し、そうした異文化との接触によって独自の世界を切り開いたさまを検証した。まさに異化作用の繰り返しがマッソンという画家を形成していたといえる。 また、やはりシュルレアリスムに参加し、マッソンとも親しかった作家ミシェル・レリスについては、その主著『ゲームの規則』第4巻『かすかな響き』の翻訳に取り組みつつ、日常生活のなかに生じる文字通り「かすかな」異化作用を求めるその文学活動の研究を進めている。 さらに、シュルレアリスムの先駆的存在であるアルフレッド・ジャリについても著作の翻訳をおこないつつ、その幻想的世界や独特の言語使用による異化効果についての考察を深めつつある。 一方、映画の分野では、ハリウッドのなかで異端的な存在であったニコラス・レイについて、彼が異文化に関心を抱いたことにも注目しつつ、考察をおこなった。さらに、日本の事例として、小津安二郎の映画にも注目した。さまざまなレベルで相似形を作りだす小津の映画は、一見すると調和を求めているように見えるが、その相似形が崩れだすときに、はじめて真の意味で時間が流れだし、映画も動き出す。これもまた、調和に充ちた世界に異分子的要素が入り込むという点で、広義のエキゾティシズムの発動と言えよう。いわゆる異文化ではないが、均質的な世界が壊れるときに生じるものに眼を向ける点で、小津もまた異化作用を映画に導入しているのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
シュルレアリスム関係は比較的順調に研究が進んでいるが、ミシェル・レリスの著書の翻訳が遅れており、これはレリス独特の長くうねるような文章が翻訳を困難にしているためでもあるが、いずれにしろそのせいで、レリスについての考察を深める段階にまだ辿りつけていない部分がある。 また、視覚芸術の分野では、とりわけ映画について、映画史上も重要であり、まさにそれまでの映画のあり方からすれば異化作用としかいえないものを持ちこんだヌーヴェル・ヴァーグについての研究を進めなければならないのだが、多少の進展はあったものの、なかなか本格的には取り組む余裕がないままである。
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今後の研究の推進方策 |
上記の遅れを取り戻すとともに、異化についての理論的考察を固めるため、フランス思想ばかりでなく、たとえばロシア・アヴァンギャルド関係の理論などもさらに調べていかなければならない。 また、視覚論などの分野についての研究も深めていく必要があるだろう。
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