研究課題/領域番号 |
25370383
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
玉田 敦子 中部大学, 人文学部, 准教授 (00434580)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 習俗 / フランス / 18世紀 / 啓蒙 / 作法書 / 近代 / ジェンダー / リベルタン文学 |
研究概要 |
18世紀において「習俗(moeurs)」の概念は、近代社会の成立における根幹となる「規範」として機能し、啓蒙の基礎となる新たな人間観の基盤をなしていた。本研究課題「18世紀フランスにおける「習俗」の変容と「作法書」」においては、文学、政治思想史、社会史研究の分野で進められた先行研究を踏まえた上で、「習俗」の概念について「作法書」を中心的な研究資料として考察する。 本年度は、まず、(1)18世紀における「習俗」の概念が、古代ギリシア・ローマにおいて発展した道徳律から何を継承していたのかについて、「作法書」と、その原典の一つとされる古典古代の文献(アリストテレス、キケロなど)を比較しながら分析をおこなった。また、(2)18世紀における「習俗」概念について、「近世イタリア・スペインにおいて発展した宮廷作法」を参照して分析をした。 その結果、18世紀フランスにおいては、古典古代の「習俗」が「男性的」な価値をもつとして称揚されたのに対し、近世イタリア・スペインに由来する宮廷文化は、「フランス的=女性的」な「習俗」を生みだしたとして低く評価されるようになったことを明らかにした。18世紀において流行した「習俗」論においては、「習俗の腐敗・堕落」に対する危惧が広く論じられていたが、「腐敗・堕落」が直接指し示すのは、近世の宮廷作法書の影響を色濃く受けた同時代の女性たちのサロン文化だったのである。このことは、たとえば、『百科全書』の項目「習俗(moeurs)」が、「女性はフランスにおいて習俗を堕落させる原因をなした」としている点からも分かる。 今年度の研究報告、とりわけ3月におこなった、名古屋大学大学院での招待講演(題目「18世紀における「男性的なもの」の回帰-習俗・趣味・ナショナリズム」)においては、関連する資料を提示し、論証をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、夏期休業中と春期休業中を利用して、計60日にわたり、パリのフランス国立図書館において、古典古代の原典、作法書関連文献を中心に充実した資料調査をおこなった。 また、韓国18世紀学会における招待講演や社会思想史学会におけるセッション、名古屋大学大学院におけるワークショップではそれぞれに反響があり、国内外の研究者との交流も深めることができた。 現在、論文の形でまだ公表していない研究発表は26年度の研究と平行して執筆をおこなっていく。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては18世紀フランスの文学作品に関する考察を中心に研究を進めていく。18世紀のフランスにおいては、ディドロによる「市民劇」など、「習俗」の純化を明白な目的とするジャンルが生み出される一方で、小説は、習俗の堕落を描き、習俗の堕落に寄与するものとして批判の対象となることが多かった。本研究においては、「作法書」とその行動規範の影響が特に大きいと考えられる「リベルタン小説」と呼ばれるジャンルを中心に、18世紀フランスのフィクションにおける「作法書」の影響ないし、利用について考察する。 26年度は、単著での論文や著書の執筆をおこなうと同時に、複数の共同研究に参加し、そこで得た知見を自らの研究にフィードバックさせていきたい。具体的には、常任幹事を務める日本18世紀学会の企画の立案に携わり、また、所属する中部大学中部高等学術研究所において新たな共同研究を主宰する。
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