研究課題/領域番号 |
25370384
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
山田 登世子 愛知淑徳大学, メディァプロデュース学部, 教授 (90100544)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フランス / パリ / フランス象徴詩 / 翻訳 / 上田敏 / 北原白秋 / 洋画 / 印象派 |
研究概要 |
1900-1920年代日本におけるフランス芸術の受容について、まず雑誌「明星」を精読・分析した結果、文学界に多大な影響をあたえた最大のものは、上田敏によるフランス象徴詩の翻訳であると認識した。しかも、この事実がほとんど研究の対象とされたことがないという研究の欠落をも痛感した。 この研究につづいて、従来は与謝野晶子の短歌の初出雑誌としてしか知られていない「明星」のイメージ全体を刷新すべきであると考え、後に『海潮音』に収められる上田敏のフランス詩訳の大部分が「明星」掲載のものであり、同誌がいかにフランス文学の翻訳紹介につとめたかを論じ、さらには誕生したばかりの洋画の紹介にも紙幅を費やしていることを実証的明らかにした。 上記の問題認識は、「明星」のみならず、事実上その延長ともいうべき「スバル」についてもいえるので、「スバル」を対象にフランス象徴詩の影響を論じた。キーパーソンは上田敏に圧倒的影響をうけた北原白秋である。白秋のフランスかぶれをとりあげるため、対比項として琢木をも論じた。二人を共にみることで、「若き明治の子」たちの言語芸術革命がうかびあがってきた。 こうした言語芸術の革命は、日本画から洋画への革命と時期を同じくしており、フランス印象派の影響を大いにうけて洋画が確立された1900年代はまれにみる豊かな画文交響の時代であることを、「方寸」や「屋上庭園」などの雑誌研究とともに改めて認識した。 上記の研究成果を、雑誌「環」(藤原書店)に連載発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
その都度新たに立ち現われてくる問題設定をどこまで追求し、どこでひとまずの達成とするかは難しいが、季刊雑誌への連載という発表形態が、締切と枚数という外的拘束力によって、はからずもその都度の決定を助けてくれた。 反面、20枚といった、半端な枚数で完結しそうな論点については、「今後の課題」として残した。まず雑誌に連載し、それを一著にまとめるという研究の遂行形態に恵まれたと思う。 また、作家の記念館やゆかりの地を検証するフィールドワークもほぼ計画どおりすすみ、「晶子記念館」や「白秋記念館」「琢木記念館」視察で多くを得た。渡仏した作家やパリはじめフランス各地でのフィールドワークは本年度は一回だったが、藤村の疎開先の確認や荷風の過ごしたリヨンの風光の観察など、収穫は多かった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も連載遂行のかたちをとって、永井荷風、島崎藤村、与謝野鉄幹・晶子ほか、作家・歌人、画家たちの渡仏体験を検証し、論じてゆく。 そのための文献研究と並行して、かれらのフランス・ヨーロッパ体験を検証する海外でのフィールドワークを時間と予算のゆるすかぎり果たしたいと思う。 また、並行して、藤村記念館や木下杢太郎記念館、津和野の鴎外記念館はじめ、キーパソンのゆかりの地や記念館を視察するフィールドワークも果たしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
多額の書籍代を予定していたが、学内助成金50万円を得たので、書籍費用の大部分はこれでまかなうことができた。 本年度の2月27日から3月16日まで、フランス・イタリアでのフィールドワークのためのフランス・イタリア旅行を実施したが、この旅費・滞在費の支出は次年度にまわるので、結果的に本年度の支出が大幅に予定より少なくなった。 次年度は、さらに夏か秋にフランス・ドイツなどのフィールドワークのための渡欧を予定しているので、支出が大きくなると思う。 文献研究・論文執筆、連載発表のほかに、8月末から9月にかけて2週間ほど、フランス・ドイツなどのフィールドワークのための渡欧を予定している。一度で成果が達成できない場合は、秋以降に再度渡欧したいと思う。 ベルリンの鴎外記念館をはじめ、渡欧した作家、画家たちの足跡の検証とともに、かれらの作品に影響をあたえた作家――モーパッサン、ゾラ、ボードレール、アンリ・ド・レニエ、ダヌンツッイオなど――の記念館の検証もあわせておこないたい。
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