研究課題/領域番号 |
25370385
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 平安女学院大学 |
研究代表者 |
高橋 義人 平安女学院大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70051852)
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研究分担者 |
TRAUDEN Dieter 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), その他 (20535273)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 聖書外典偽典 / アウグスティヌス / オリゲネス / トマス・アクィナス / 天使と悪魔 / 原罪 / ルソー / ゲーテ |
研究概要 |
平成25年度は、西欧における悪魔像の誕生に焦点を当てた。実際に扱ったのは、①『聖書外典偽典』(バルトロメウス福音書、サロモンの遺言、エノク書等)で、2週間に一度、京都大学Trauden研究室で、研究分担者のTrauden氏、研究協力者の久山雄甫氏と3人で、ドイツ語訳の『聖書外典偽典』を読みながら、「天使とはいったい何か」「天使ルツィファーはどうして天から堕ちたか」などの問題を検討した。研究会は原則として隔週の月曜日か土曜日に行った。毎回2時間~3時間である。 続いて同じ研究会において、アウグスティヌス『神の国』第13章で扱われている神と天使と悪魔の関係、反グノーシス主義、オリゲネスの『諸原理について』における堕天使論、トマス・アクィナスの『神学大全』における神の認識の問題、トマス対グノーシス主義の問題を考察討議した。討議はすべてドイツ語で行った。 現在では、それらの歴史的文献をもとにして誕生した中世ドイツの宗教劇(特に復活祭劇)を取り上げ、中世ドイツ語のテキストに即しながら、民衆はこれらの劇中で悪魔たちがイエスに打ち負かされる場面を見て笑うことによって悪魔に対する恐怖心を克服したことを考察している。 西欧のキリスト教社会では神や悪魔と直接に対峙するところから独特な個人主義が誕生した。森鴎外はドイツに住みながら、そのような個人主義に対する違和感を拭うことができず、日本的な個人主義を模索した。それについてまとめたのが論文「無私の個人主義――森鴎外とゲーテ」(岩波書店『文学』近刊)である。 またルソーとゲーテは、アウグスティヌスの原罪説を真っ向から否定し、自然宗教の上に啓示宗教を位置づけたトマスとは違い、啓示宗教を否定し自然宗教にもとづく世界を構築しようとした。平成26年5月末にアイルランドで開かれる国際異文化交流独文学会(GiG)ではこの問題について発表することになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
中世ドイツ演劇の専門家であるDr. Dieter Trauden氏とともに研究会を開催したことによって、研究は当初予定していたよりもはるかに捗った。『聖書外典偽典』、アウグスティヌス、オリゲネス、トマス、中世ドイツ宗教劇に関する一次文献や二次文献は私もかなり知っているつもりだったが、氏は私よりもはるかにそれらに通暁しているからである。 また文献のうちのかなりの部分はラテン語や中世ドイツ語で書かれているが、私や、ラテン語の得意な久山氏に分からない箇所も、氏は比較的簡単に解読してくれ、調査時間を大幅に短縮することができた。 またTrauden氏は熱心なカトリック教徒で、アウグスティヌスの教えにかなり忠実であるが、私はアウグスティヌスの原罪説やトマス・アクィナスの啓示宗教にはきわめて批判的であるので、研究会の最中、ドイツ語での議論になることも時々あり、それによって銘々、自分の立場をより明確にすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度4月からは中世ドイツの宗教劇の分析に進んだ。これから読むのは、『インスブルック復活祭劇』、『テオフィロスの物語』、『ユッタの物語』などである。 それが終わったら、宗教改革期における『民衆本ファウスト』の分析に進み、ルター派の立場から書かれたこの芝居が、ローマ教皇を悪魔視していることを考察する。 さらには、唯名論のウィリアム・オッカムが中世スコラ哲学やグノーシス主義を相手に、それらをいかに論駁し、魔女狩りをいかに阻止しようとしたかを探る。 これまでは研究協力者にすぎなかった久山氏の神戸大学赴任にともない、彼にも研究分担者になってもらうことができた。それによって共同研究はさらに加速度を増すであろう。 Trauden氏は、せっかく3人でこれだけ共同研究したのだから、その成果を日本語の本にしようと提案している。彼のドイツ語論文を訳してもらうには、さらに研究協力者が必要になるかもしれない。
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