研究課題/領域番号 |
25370395
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大木 康 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (70185213)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 中国 / 音楽 / 明清 / 歌唱 / 演劇 / 昆曲 |
研究概要 |
中国の明末清初期を中心とする歌唱文化を、従来のように音楽は音楽、演劇は演劇、そして歌詞を扱う文学は文学と分野を分断するのではなく、当時の歌唱文化の全体像を明らかにしたいというのが、本研究の目的である。 本年度における研究実績の第一としては、中国語による著書『冒襄与影梅庵憶語』(台北:里仁書局、2013年)の刊行を挙げることができる。同書は、2010年に刊行した『冒襄と『影梅庵憶語』の研究』(汲古書院、2010年)の増補改訂版である。うちには冒襄の演劇鑑賞、唱歌鑑賞の状況、またみずからの劇団などについての分析である「冒襄的戯劇活動」の章、またもと南京秦淮の妓女であり冒襄の愛妾であった董小宛の思い出をつづった『影梅庵憶語』も、演劇などについての豊富な資料が含まれるが、その詳細な注も含まれている。また、中国語版で増補した「彭剣南之戯曲『影梅庵』『香えん(田+宛)楼』及其時代」も、上記『影梅庵憶語』を戯曲化した作品について論じている。本書については、すでに台湾の大学で教鞭をとるある友人から、講義に際してのリーディングリストに加えたとの連絡を受けている。 研究実績の第二としては、広州中山大学の黄仕忠教授との共同編集により、『日本東京大学東洋文化研究所双紅堂文庫蔵 稀見中国鈔本曲本彙刊』(桂林:広西師範大学出版社、2013年)全三十二冊の刊行が挙げられる。これは東京大学東洋文化研究所に蔵せられる中国戯曲テキストの一大コレクションである長澤規矩也教授旧蔵双紅堂文庫に収められる戯曲鈔本八百五十二種を影印したものである。これら手書きのテキストは、世界中をさがしても同じものを見ることは難しく、なかには歌唱のための符号(工尺譜)を付したテキストも数多く含まれている。こうした資料を刊行することで、研究の基礎を固めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にあたる平成25年度においては、「研究実績」に記したように、従来の研究の外国語による発信、また資料の整理収集が中心であった。それに加えて、研究成果としては公刊されていないが、2014年3月にアメリカのフィラデルフィアで開催されたAAS(Association for Asian Studies)の年次大会に出席し、東アジアにおける知識の流通に関するパネルに討論者として出席し、中国演劇に関するコメントを行い、またAASと合わせて開催されたCHINOPERL( Chinese Oral and Performing Literature)の会合にも参加し、戯曲や音楽、説唱藝能など、歌唱に大きく関わる研究発表を聞き、討論に加わった。このように、研究については、おおむね順調に進行しているということができる。 課題としては、重要な資料については、すでに入手したものの、それらの精細な分析にはいまだいたっていないという点であろうか。一つには、本来日本に招聘し、音楽関係の分析について、お教えを請おうと思っていたシカゴ大学の大学院生が、本人の博士論文の執筆に集中する必要から、招聘がかなわなかったことがある。今年度には、招聘を実現するし、資料の共同解析を行いたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
資料の収集は依然として継続する予定であり、国内外の図書館に出かけ、筆写、撮影、あるいは複写によって、資料を蓄積していくことにしたい。一方で前項に記したように、昨年度は、予定していた研究協力者の招聘がかなわなかったということがあるが、今年度には招聘の目途がつき、招聘して共同研究を行う予定である。なお、研究協力者の所属するシカゴ大学では、歌唱文化に関する図像資料の展覧会が行われており、シカゴ大学のそのグループとの連携も模索してみたい。 また明清両代の歌唱に関する資料集の編纂についても着手することにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
直接経費900000円のうち899980円を執行して研究を行い、成果を得た。 残額20円分の執行計画ということになるが、この20円は、次年度の経費と合わせて、有効に活用する予定である。
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