崑崙山や蒼梧山など中国の周縁の聖山とされる山の描写は、先秦から漢初の詩歌や史書・諸子では、その名を挙げるだけで、その情景の描写はほとんどない。これに対して『山海経のような巫祝の知識がもとになっている文献では、崑崙そのものの情景を装飾豊かな美文で描く。漢代の辞賦作品では崑崙は単に天子の支配の及ぶ最遠の地を示すアイテムと化すが、『海内十洲記』など道教系の文献や、その流れをくむ志怪小説では、依然として崑崙の詳細な風景描写が行われた。以上から、「異景」の描写に熱心だったのは巫術や道教などの宗教知識を伝える文献のみで、正統的な詩賦ではその情景描写に冷淡であったことが明らかになった。
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