研究課題/領域番号 |
25370397
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
氏岡 真士 信州大学, 人文学部, 准教授 (60303484)
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研究分担者 |
閻 小妹 信州大学, 全学教育機構, 教授 (70213585)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 水滸伝 / 七十回本 / 貫華堂本 / 酔耕堂本 / 嵌図本 / 挿増本 / 評林本 / 容與堂本 |
研究概要 |
『水滸伝』の変遷は、金聖嘆の七十回本が明末(崇禎十四年、1614)が刊行されたあとも続いた。その原本(貫華堂本)と、清の順治丁酉(十四年、1657)の序をもつ酔耕堂本とを比較すると、後者においては王望如の総論や英雄40人の挿絵などを巻頭に加え、また各回の末尾にも王望如の評を増補している。こうした、いわば付録のサービスからも、明代以来の『水滸伝』の出版競争が、清代においても続いていたことが明らかになる。清代は、けして七十回本の独擅場ではなかったのである。 七十回本の競争相手となるテキストは多様だが、かりに(文)簡本と(文)繁本とに二大別しよう。前者において今年度、本研究が注目したのは嵌図本の系統である。なかでもドイツに蔵される鄭喬林本(李漁序本)やミュンヘン残本は、陳兆南氏や馬幼垣氏によって紹介されており、とくに馬氏はこれらが、同系統のうち明末の戊辰(崇禎元年、1628)刊行と目される劉興我本や、その後継者たる藜光堂本に比べて後出ではないかという仮説を提示していたが、今年度の研究によって、この仮説を実証的に支持することができた。これによって相次ぐ嵌図本の刊行が、上述の七十回本2種の刊行と時期的に並行することも窺えるのである。 またこの嵌図本の問題を考える上で、先行する挿増本や評林本への理解を深めることも必要となる。そこで今年度はこれらの系統についても、挿絵の標題を中心に調査分析を行なっている。 さらに競争相手の後者であるが、いわゆる容與堂本の相互関係について精査した。この系統は『水滸伝』研究において扇の要に位置するものでもあるが、ほぼ完全なテキストとして北図本、天理本、内閣本の3つがある。これらは細部に多くの相違点を見出せるもので、初刊本(庚戌、万暦三十八年、1610)から一定の距離があると見られるが、その具体的な関係についても、それぞれの特徴から推定できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の概要にも記した諸研究のうち、嵌図本の問題は論考をすでに発表した。他にも印刷中のものがある。さらに原稿が完成し投稿の機会を待つ論考もある。それ以外についても、次年度以降の公表に向けて準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
大きく2つ、版本の調査分析と人物研究が挙げられる。 前者は、たとえば上記の容與堂本研究によって、石渠閣補刊本(天都外臣序本)を実証的に分析する基礎が整った。このテキストは容與堂本より古い序をもつが、実際は清印本である。興味深いのは、それが康煕五年(1666。一部の版心下部に明記される)以降も複数回の補刻を重ねているにも関わらず、その本文には容與堂本研究から推定される『水滸伝』の古い姿と重なる面が観察できることである。清代における『水滸伝』各種の複雑な伝承過程を解明するうえで、石渠閣補刊本は大きな手がかりを与えてくれる。 ところで本年度は前述のほかに、清印本『水滸伝』に関わる人物の一人として、従来あまり顧みられなかった陳枚についても、ある程度の調査を行なうことができた。この人物の序が十巻本、八巻本また百二十四回本といった清代の刊本に見られることは注目に値するが、具体的な言及は管見の限りでは孫楷第が康煕年間(1662-1722)の人と指摘する程度である。しかし、たとえば明刊本より原形に近い側面をもつ十巻本が、従来より清刊本と判定されてきたのは彼の序に負うところが大きく、この人物について掘り下げることはやはり必要である。 厄介なのは清代において比較的著名な同名異人が複数存在したことである。したがって陳枚に関わる文献のうちどれが本研究に必要な資料なのか、弁別に時間を要したが、幸いにも一定の資料群が本研究の対象とする陳枚に関するものであった。そして彼が李漁(1611?-1679?)や周亮工(1612-1672)といった、『水滸伝』とも縁のある著名人と一定の交際があったことも窺えるようになり、これが新たな手がかりとなる。 以上のように版本の調査分析と人物研究をいわば車の両輪とすることで、『水滸伝』はもちろん、広く当時の出版文化の諸相についても、新たな光を当てることが可能になるであろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画で見込んだより安価に研究が遂行できたため。 本年度と次年度の所要見込額は同額であり、今回生じた残額はその約0.75%だが、資料撮影時に使用すれば大よそ数十葉分の費用に換算できる。百巻本であればその3巻分前後に相当する。そこで書影を入手する際に、その費用の一部に充当する予定である。
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