本研究は、明末に刊行された戯曲集『六十種曲』の成立・編纂意図を明らかにすることを目的とする。『六十種曲』は、その名の通り60種類の作品を集めた戯曲集であり、名作として名高い『琵琶記』『西廂記』『還魂記』などを収録し、中国演劇史において重要な位置を占めている。しかしながら、『六十種曲』を総体的に扱った研究はこれまで十分に行われているとは言い難い。そこで本研究では、『六十種曲』を中心に据え、収録作品の精密な校勘作業・語彙調査を通して考察を行うものとする。 異本の現存状況を目安として『六十種曲』所収の作品をグループ分けし、そのグループごとに調査を行った。調査の過程で、次に挙げる3つの書坊の刊本を指標とした分類をすることとなった。すなわち、異本の現存が、①富春堂本のみ、②富春堂本と世徳堂のみ、③世徳堂本と継志斎本のみ、④その他の版本、である。 研究期間内に、複数の作品について論文を公表した。これまでに浮かび上がってきた問題として、次の傾向があることを指摘できる。(1)富春堂本と世徳堂本の2種が現存する作品では、六十種曲本の本文は富春堂本に近い傾向がある。(2)世徳堂本と継志斎本の2種が現存するグループでは、六十種曲の本文は継志斎本に近い傾向がある。 最終年度の調査結果として、さらに次の2点を付け加えたい。(3)①と②の富春堂本が現存する場合、六十種曲本の本文は富春堂本に基づきながら、しばしば全面的に改編の手が加えられていることがある。(4)「④その他」に分類した書坊のうち、1つの異本しか残っていない作品では、その異本と本文が一致する場合が複数見られる。このことは、編集者が『六十種曲』編集の際、どのように収録作品を選んだかを知るてがかりとなるだろう。まだ公表出来ていない研究結果については、できるだけ速やかに公表を進めることする。
|