研究課題/領域番号 |
25370401
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
小松 謙 京都府立大学, 文学部, 教授 (00195843)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 中国演劇 / 白話小説 / 元雑劇 / 水滸伝 / 三国志演義 / 明代演劇 / 出版 |
研究実績の概要 |
当該年度においては、まず元雑劇「范張鶏黍」元刊本の訳注を作り、詳細な解説を付して、『元刊雑劇の研究(三)―「范張鶏黍」』と題して、9月に汲古書院から刊行した。同書は9名の共著という形をとっているが、実際には解説・本文とも小松が一人ですべて執筆したものである。これは、本研究において重要な意味を持つ元雑劇の重要な作品について、文学のみならず、歴史・社会にも目配りした前例のない高度な水準の研究であり、解説はもとより、訳注部分にも新しい研究成果が多数盛り込まれている。また、この雑劇は『清平山堂話本』所収の小説「死生交范張鶏黍」、更にはこれを翻案した上田秋成『雨月物語』「菊花の契」とも深い関係を持つものであり、解説においてこれらの作品との関係について論じた点は、「演劇と白話小説の関係」という本研究の課題に直結するものである。 更に、元曲への研究を深めるべく、元代の散曲(うたとして唱われる曲作品)の全作品を調査し、詳しく分類した上で、散曲と雑劇という新たな視点から、中国を代表する演劇である元雑劇をとらえ直すことを試み、その成果として論文「元代散曲考」を『和漢語文研究』第12号に、「元雑劇を生んだもの―散曲との関わりを中心に―」を『京都府立大学学術報告 人文』第66号に掲載した。これらは、元雑劇の性格を、特に妓女との関わりという視点から根本的に問い直すとともに、元代社会が白話文学の発展上どのような役割を果たしたかについて、新たな視点から見直すものである。 また、9月13日には、龍谷大学で開催された三国志学会京都大会において、シンポジウム「『三国志演義』とは何か」において報告を行った。同報告は、先にふれた元曲に関する研究を踏まえ、『三国志演義』の成立事情について、全く新しい観点を提示したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度に行った元代の文学・文化に関する研究により、演劇と白話小説がどのように文字化されるに至ったかという点について、全く新しい見通しをえることができた。これにより、演劇作品と白話小説、更には語り物などの芸能が文字化されたものを「白話文学」として総括的に把握し、出版との関わりを考えつつ、新たな文学史を構築し、中国社会をこれまでとは異なる視点から見直す道筋が明らかとなり、次年度に刊行を計画している著書『中国白話文学研究』のおよその構想をまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を総括し、過去の研究をも取り入れた上で、全体を総括する章を新たに執筆して、著書『中国白話文学研究』(仮題)を完成させ、研究成果公開促進費を申請して刊行することを目指す。また、これまで主として行ってきた『水滸伝』『三国志演義』以外の、「楊家将」物語などに関わる研究をも進める。 更に、現在進めている『水滸伝』諸版本の校勘作業を継続し、『水滸伝』の成立と変貌の様相、更には書記言語としての白話が完成していく過程を明らかにし、今回の研究課題と、次の段階として計画している研究課題「『水滸伝』の研究」をリンクさせる形で、中国における娯楽読書の成立と、書記言語としての白話の発生・成立という、今日につながる大きな問題についての考察を開始する。
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