研究課題/領域番号 |
25370402
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
柳川 順子 県立広島大学, 人間文化学部, 教授 (60210291)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 画像石 / 歴史故事 / 漢代 / 語り物 / 宴席 / 語りの文体 / 詠史詩 |
研究概要 |
漢代、死生観の変質に伴い、現世での宴席と死者の魂を慰める墓祭とは非常に近似するものとなった。このことを背景として、墓壁や死者を祭る場を飾る漢代画像石の中には、俗楽の演奏や雑技など、当時の宴席を彩った様々な芸能の有り様をリアルに描くものが豊富に含まれている。そして、そうした宴席風景とともに、歴史故事の一場面をその一角に活写する画像石も少なくない。他方、漢墓から出土した文物の中には、歌舞や雑技を演じる人々の塑像に混じって、語り物を披露する芸人の塑像も認められる。また他方、先学も指摘するとおり、歴史を記した漢代の文献『史記』の中には、元来は語り物であったかと推測させるような、口語特有の文体が埋もれている。 これらのことから推し量るに、漢代の宴席では、様々な芸能の一つとして、歴史故事を題材とする語り物文芸が行われていたのではあるまいか。こうした見通しの上に立って、画像石に描かれた歴史故事を網羅的に収集しつつ、それらの故事を記す文献を探索し、その文体について、語り物的な要素の有無、及びその判断の根拠となる具体的な事象を拾い上げていった。その結果、それらの文献には、会話を主軸とする展開、同じ語句の反復、過剰に劇的な演出、身振りの描写といった特徴的事象が多々認められた。おおむね当初の見通しどおり、漢代、語り物文芸が行われていた可能性は非常に高いと判断される。加えて、漢魏六朝時代の「詠史詩」が、画像石に描かれた歴史故事と重なる題材で詠じている事例も幾つか見出せた。「詠史詩」は五言詩型を取り、五言詩は漢代、宴席において生成展開した文芸である。 従来の研究では、画像石に描かれた歴史故事を、当時の人々の精神世界と直結させる論が大勢を占めてきた。これに対して本研究は、画像石と精神世界との間に、宴席における語り物文芸という具体的な事象を想定しようとする点に独自性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の計画は、下記のとおり、その全てに着手することができた。ただし、その調査はまだ途上の段階にある。他方、平成27年度に予定していた「詠史詩」との関連性については、計画に先行して進めることができた。これらのことを考え合わせて、上記区分(2)のように自己評価する。 ○計画1「歴史故事を描く画像石の収集と分析」については、主に『中国画像石全集』全8冊の中から、該当するものを抜き出した。その際、その画像が当該墓壁の中に占めている位置、出土地域、年代等にも目配りした。 ○計画2「文献上における語り物的歴史記述の探索」については、計画1の作業で選び出した歴史故事の一部について、その記述を『晏子春秋』『史記』『新序』等の文献の中に探索し、その文体の中に、語り物的な要素の有無、有る場合にはそのように判断される根拠を明らかにした。 ○計画3「語り物が行われたことを示す資料の探索」については、漢代出土文物の中に、宴席における歌舞音曲の上演をかたどる塑像とともに、語り物を演じる芸人の塑像(説唱俑)が少なからず含まれていることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
申請時に示した平成26年度の研究計画では、25年度の計画1、2、3の継続的な実施に加えて、ここまでの研究成果をまとめ、口頭発表を行うこととしていた。予定どおり、これらの研究計画を実施する。ただし、口頭発表は機会があれば行うこととし、ここまでの成果を論文として発表することを目指したい。 なお、現時点において次のような疑問や課題が残されている。すなわち、①画像石に描かれた様々な図像は相互にどのような関係性を持っているか。②画像石に描かれた全ての歴史故事が語り物であったと見ることは妥当か。③画像石に描かれた歴史故事は、その他一般の歴史記述と異なる傾向を持っているか。これらの問題については、計画の予定どおりの実施に平行して、調査考察を進めてゆきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品(パーソナルコンピュータ、研究図書一式など)については、予定どおり購入して研究を進めたが、旅費をほとんど使わなかったため。 平成25年度には実現しなかった、旅費を伴う調査を実施するとともに、近年とみに増加している中国からの出版物の購入や論文の収集のために、繰り越した予算を当てたい。
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