戯曲における本文と批評のインターテクスチュアリティに関する成果として、論文「槃カ[=くさかんむり+過]碩人による西廂記の改編について」を『東洋文化研究所紀要』に掲載した。本論文は、元雑劇『西廂記』の明代の刊本の一つである槃カ碩人本に加えられた改変の特徴と意図について考察したものである。この刊本は、北西廂の複数のテキストを用いつつ、南西廂のテキストも取りこみ、諸本についての批語や改変の理由についての校語も記されている。それらを読み解くことで、この刊本が、明末の文人が『西廂記』を古典として尊重し、その大胆な表現を維持しつつ、上演状況の変化に対応するために改変を加えたテキストであることを明らかにした。 近世白話文学である戯曲と小説のみならず、思想や文言の小説などを含んだインターテクスチュアリティの研究成果として、シリーズ・キーワードで読む中国古典2『人ならぬもの 鬼・禽獣・石』(法政大学出版局)を刊行した。本書の編者をつとめるとともに総説・第1章「鬼について」・余説を執筆した。 研究期間全体を通じて、論文2件、図書2件を成果として発表した。これらによって、作品が成立するにあたってどのように既存のテキスト群が受容・統合・変形されているかというインターテクスチュアリティ(テキスト相関性)の様相を、具体的な作品について考察するという本研究の目的はほぼ果たされた。細分化された研究分野を超えて、白話文学に過去のどのようなテキストが溶けこんでいるかという、テキスト連関及びテキスト生成のプロセスを明らかにすることには一定の意義が認められるであろうと考える。
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