最終年度にあたる2015年度においては、引き続き上海図書館を訪問し、1929年中国帰国後から戦争期にわたる陶晶孫の医学・文芸両面における活動に関する資料収集をすすめた。特にこれまでの研究では明らかにされていない医学者としての陶晶孫の一面を伝える東南医学院関連の資料、また日本の図書館・学術機関では所蔵されていない、本研究の分析対象である日本語新聞『新申報』マイクロフィルムの収集・購入に努め、同時にまた関連記事の閲覧と分析を行った。そのほか日本国内では、「大東亜文学者大会」など日本統治下の中国における文化政策に関わる先行研究および資料の収集と閲読を進めた。 中国との学術交流においては、陶晶孫研究の第一人者である北京外国語大学の厳安生教授にお目にかかり、現在の中国における陶晶孫研究に関する知見を深めることができた。 また新たに収集した資料をもとに「2014東京-首爾 中国現代文学研究対話会」で発表した中国語原稿「戦争下的記録与故事:陶晶孫発表於《新申報》的作品」を大幅に加筆し、中国語研究論文「淪陥上海的叙述与故事:陶晶孫的文学陣地」を執筆した。同論文はすでに上海の復旦大学出版社刊行、2016年度版『史料与闡釈』への掲載が決定している。 さらに2016年8月に上海社会科学院で開催される国際シンポジウム「文化空間と文化融合」にて本研究成果の一部を発表する予定である。 当初の目的の通り、今後も本研究成果を中国の学術界で積極的に発表し、日本人研究者ならではの視点を提示することにより、日中の学術交流に貢献したいと考えている。
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