研究課題/領域番号 |
25370411
|
研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
佐々木 あや乃 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60272613)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | アッタール / イスラーム神秘主義 / ペルシア古典文学 / 説話文学 / 韻文 / イラン |
研究実績の概要 |
研究代表者は、12世紀のペルシアの神秘主義詩人アッタール著『神の書』に焦点を当て、作品中に登場する多様な人物とイスラーム神秘主義思想と相関性についての考察を進めた。具体的には、論文「ペルシア神秘主義説話文学にみる「狂人」ーアッタール著『神の書』の場合」を『総合文化研究』(東京外国語大学総合文化研究所)に執筆し、『神の書』に登場する「狂人の体をなした賢人(ウガラーイェ・マジャーニーン)」に注目し、その特徴を洗い出しまとめた。また、同作品に登場する女性像のなかでも、「狂人」的性格が特徴的である逸話について同論文内で考察・検討するに至った。 『神の書』の翻訳作業に関しては、在テヘラン人文学研究所の研究者とのメールや電話による意見交換を踏まえながら、研究代表者は作品の約半分にあたる第10章までの和訳を完成させるに至った。 イランにおけるイスラーム神秘主義研究の中心であるイスファハン大学文学部とは、電話やメール等を通じ協力体制をより緊密かつ堅固なものとし、『神の書』のテクスト入力についてもイスファハン大学からの無償の作業の遂行の申し出を受け、テクスト入力・校閲までが完了するに至った。 さらに、研究代表者は、最終年度にアッタール研究の成果発表の機会としての研究会をイスファハン大学と共催することとし、在テヘラン人文学研究所、オーストラリア国立大学と在ボスニアサライェヴォ大学から1名ずつ、合計3名のペルシア文学研究者を研究協力者として招聘するための準備にとりかかり、イスファハン大学及び各研究協力者たちとの連携をはかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、アッタールの叙事詩作品のうちの2作品『鳥の言葉』と『神の書』を研究対象とし、各々の作品の登場人物を分析したうえでイスラーム神秘主義用語との相関性の明示を目標とした。今年度終了時点では、研究代表者の主たる研究対象は『神の書』の枠内に留まっているが、研究協力者のうちの1名が『鳥の言葉』の登場人物をめぐる研究に取り組んでおり、来年度早々に開催予定の研究会ではその研究成果が発表される運びとなっているため、研究は当初の研究計画通り順調に進んでいる。また、この2作品のテクスト入力・校閲作業が済んだため、さらなるテクスト研究のための準備は完全に整ったといえる。 『神の書』の邦訳についてはよりスピードアップを図る必要がある。イランとのメール交信は時に途切れることもままあり、翻訳作業の思わぬ障害になることもあるのだが、研究代表者の所属機関に今年度秋に赴任したイラン人研究者からも全面的な協力を得られる体制が新たに確約されたため、最終年度は翻訳により多くの時間を割き、より頻繁に検討や意見交換の機会を定期的にもつことが可能となった。 イラン、ボスニア、オーストラリア、日本という国際的なアッタール研究の協力体制については、磐石な基盤を構築することに成功しているので、なんら不安要素はない。最終年度にイランで開催予定の研究会における研究代表者、研究協力者らの研究発表についても、準備は万端整っている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究協力者らを招聘してイスファハン大学と共催する最終年度の研究会で、アッタール研究の最前線に触れる機会を作り、そこでの口頭による成果発表をアッタール研究論文集として発表することによって、アッタール研究の最新の論考に触れる絶好の機会を作ることができる。論文集はペルシア語と英語の2カ国語で刊行する予定である。 研究発表と論文集への寄稿以外に、研究代表者はアッタールの作品の登場人物とイスラーム神秘主義用語との相関性をめぐる論文も執筆する。これには『鳥の言葉』『神の書』の入力・校閲済みテクストが大いに活用される見込みである。 『神の書』の邦訳については、今年度は新たな研究協力者との研究会を定期的により頻繁に開催することにより、年度内のより早い時期での全訳を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は研究代表者のイラン出張と海外からの研究協力者の日本招聘を予定していたが、最終年度4月に国際的な研究会をイランで開催する運びとなったため、研究代表者のイラン出張と研究協力者の日本招聘をとりやめ、学会のため多額の旅行費用が予想される研究協力者のイラン招聘と研究代表者へのイラン出張の費用に充てることとした。結果的にはすべての旅行費用が予想を下回る金額内におさまったため、次年度使用額が生じる結果となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究会で発表されたペルシア語の論考を論文集にまとめるための費用とし、英語への翻訳をここから支出する。イランが経済制裁下にあるため、制裁が解除されなければ翻訳料支払いのために研究代表者がイランに出張する必要も生じる。また、なんらかの理由によって翻訳代金の支払いが不要となれば、アッタール科研のホームページを作成し、国際的な研究会の成果を世界に向けて発信するための費用に充てる。さらに、今後のアッタール研究の継続のため、研究代表者がイランに出張あるいは研究協力者を日本に招聘し、今後の研究連携をさらに強固なものとし、今後のアッタール研究の継続・発展のための意見交換をおこなうための費用としたい。
|