研究課題/領域番号 |
25370412
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北田 信 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (60508513)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中世ベンガル語 / 民族音楽・演劇 / インド音楽 / ネワール / 仏教音楽 / 国際情報交換 / ネパール:インド |
研究実績の概要 |
ネパール・リサーチ・センターにおいてカーシーナート・タモート教授と、パタン王国のプランダラシンハ王(1560-1597)の治世に著されたベンガル語劇『悪魔ジャーランダラ退治』およびパタン王国のシヴァシンハ王(1597-1619)の治世に著されたベンガル語劇『クリシュナ物語』の写本を解読した。この二つの戯曲からはこの時代のパタン王国の歴史を読み取ることができ、歴史的資料として価値がある。また言語的にみると、この二つの戯曲で使われているのは中期ベンガル語の最初期の形態である。さらにムスン・バハー僧院において、仏教音楽(チャチャー歌)、Gandhamandala (Raga Malhar), Varahivyasthita (Raga Tvadi) という二つの曲に関する聞き取りを行った。前者は儀礼においてまず初めに大地を聖化する役割を持つ。後者は猪の頭をもつ女神に捧げる曲である。さらにカトマンドゥ盆地南部に位置するネワール族の集落ファルピンで、伝統芸能継承者ダルマラージ・ヴィシュヌ・バラーミー氏に聴き取りを行い、毎年行われるカールティク・ナーチという演劇祭の演目の中に、古くから知られている戯曲『マダーラサー姫の誘拐』が入っていることを確認した。 インド・西ベンガル州北西部の農村には現在でも、ジュムルと言われる民謡ジャンルが伝承されており、現地調査を行った。ジュムルの原型と思われるものは、サンスクリットの音楽文献にも言及され、さらに、中世ベンガル語の最初期の宗教的抒情詩に、ジュムルと共通する特徴が含まれていることが示唆されている。今日ジュムルの伝承される地域は、ベンガルからネパールに向かうルートと重なり、ベンガルとネパールの伝統芸能を結ぶリンクの解明に、重要なヒントを与えてくれるものであることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では、正体不明の新期インド・アーリア語で書かれた『ラーマ劇』を扱うことにしていたが、既に前年度に解読を済ませてしまったので、別のベンガル語戯曲を二つ扱った。さらに、ファルピンで行った聞き取りによって『マダーラサー姫の誘拐』が、現在でも伝承され実際に演じられていることを突き止めることができたのは、非常に有意義な成果であろう。 その反面で、カトマンドゥにおけるダファー歌の調査を進めることが困難になり、今年度は行わなかった。しかし、その代わりとして、インド・西ベンガル州において、関連性のある民謡の現地調査を行った。
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今後の研究の推進方策 |
計画通り、演劇写本の解読と、インド・ネパールにおける伝統芸能の現地調査・記録を進める。 戯曲『マダーラサー姫の誘拐』については、著者Jagajjyotirmalla王の孫Prakasamalla王による付加部分があり、その箇所に、彼の個人的な感情が反映していることが判明した。書き手と文学鑑賞をめぐる、極めて意義深いテーマだと言え、さらに深く調べてゆく価値があると思われる。具体的には、今年度の夏、Prakasamallaの著作の写本を、入手する予定である。
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