本科研では変貌を遂げつつあるオセアニア諸地域の先住民・移民コミュニティのあり方を、文学・アート・メディアによる共同体形成や、先住民医療、環境問題に関する言説形成などに注目して考察してきた。日本も視野におき、核や原発に関する環境文学や冷戦時代の太平洋核実験、大国の経済活動がもたらす搾取とそのひずみ、植民地状況とポストコロニアル状況に声を発する文学やアートを検証した。 最終年度は、マーシャル諸島出身の若手女性詩人Kathy Jetnil Kijinerの詩とハワイ在住アメリカ人作家Robert Barclayのマーシャル諸島を舞台とする小説Melal、およびマーシャル諸島のコミュニティ映画を分析した。戦争、核実験、ミサイル実験、地球温暖化など、植民地時代からグローバリゼーションの現代まで、大国の活動の負の負債を負うグローバル・サウスとしてのマーシャル諸島のあり方は、キリバス共和国などのほかのミクロネシアの諸島国家の歴史とも共通する。キリバスのクリスマス島で行われた核実験に関する文献をフィジーの南太平洋大学図書館、およびニュージーランド・アーカイブで収集、また、ハワイ大学が提供する1か月半のサモア語イマージョンコースをマノア・キャンパスとサモアのマノノ島で夏に受講し、これまで独学であったサモア語の強化を行った。年度末に行った南太平洋系移民作家の舞台芸術の視察では、その成果が確認できた。サモアでは先住民医療(taulasea)についてのインタビューも行った。今年度はこれまでの分析に基づき、国際学会発表2件と国内での口頭発表2件の成果報告を行った。 これまで個別の論文や共著として発表してきた本科研の研究成果は、今後、補足の調査を行いながら、総合的にまとめる予定である。本科研期間中に開拓した国内外での研究のネットワークは、今後新たな補助金を得て、国際共同研究に発展させることを目指す。
|