本研究は、〈近代〉日本における最も包括的かつ根底的な生物学的イデオロギーないし自然史的社会観である「社会進化論」もしくは「優生思想」と、それが文学に与えた影響ないし複合的な関係性について、歴史的な分析に付すことを眼目とし、そのための実証的基礎資料を国際的視野で集めつつ、新視点で研究を展開するものである。最終の三年目である二〇一五年度も、当初の研究計画に従い、日本語あるいはその比較対照に必要な他言語による基礎資料の調査・収集がはかられ、またその解読が継続的かつ丹念に推し進められた。またその成果として、専門の所属分野ではない日本英文学会での発表を含んだ、研究発表を二件、研究内容を生かした講演一回、関連する事典項目の翻訳を四件、行なった。五月二四日、立正大学(品川キャンパス)にて開催された第87回日本英文学会全国大会では、多数の参加者に恵まれ、新たな研究の進捗について、その意義の確認と検証を行なうことができた。付随した事後の英米ないし英語圏文学研究者との討議・意見交換もまた、問題意識のいっそうの深化と展開をうながすものとなっている。さらに一件の発表、またその他これまでの合衆国における国際学会での発表も含め、研究成果を狭く日本文学研究者のみの学問的慣習の世界に照らすのではなく、その理論の行程を、対外的な評価の高い専門以外の領域の研究者の厳しい検分の目に晒す機会が得られたことは、何よりの達成であった。よっていずれも、依然完全とはいえないにせよ、日本文学の近代性をめぐる問題についてひろく領域横断的に考察するという所期の研究目的の諸要点を満たすことができ、かつまたこの成果自体によって、新たな理論的・思想的展開の端緒となる基盤を築くことができたと考える。
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