研究課題/領域番号 |
25370425
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
篠原 和子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00313304)
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研究分担者 |
平賀 正子 立教大学, 異文化コミュニケーション研究科, 教授 (90199050)
秋田 喜美 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 講師 (20624208)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際研究者交流(オーストラリア、ブラジル) / 国際会議開催 / 音象徴 / オノマトペ / 詩的言語 |
研究概要 |
研究計画に従い、5月に第9回国際類像性シンポジウムを代表者・分担者2名が中心に運営し、立教大学において開催した。オーストラリア、ブラジル、日本から講演者を招いて国際的交流を行い、ソシュールによって確立された記号の恣意性への批判として、特に類像性(記号の形と内容の間に類似に基づく関係性がみられること)の理論・応用の両側面からなされた研究成果を共有した。現在、発表論文から主要な研究を書籍出版するため編集を行っている(平成27年3月までにIconicity: East Meets Westと題してJohn Benjamins社より出版予定)。 課題の具体的研究項目としては、[1]音象徴の身体的動機づけ、[2]オノマトペの通言語的構造と特性、[3]詩的言語の構造と特性、についてそれぞれ実績を上げた。[1]は、研究代表者と協力者(川原)とで人間の性格イメージに関する音象徴ならびに視覚情報とイメージの関連を実験的に検証した。 [2]については、分担者(秋田)が日本語オノマトペの統語的特性と感情表出性の相関を複数のコーパスより検証した他、韓英中3言語との意味比較からオノマトペの統語と意味の類像的関係を探った。更に、移動表現の類型論という文脈における様態表現としてのオノマトペの位置づけを、通言語的観点から考察した。 [3]は、分担者(平賀)が協力者(山田)とともに詩的言語の分析を通して、ヤーコブソンの詩的機能に対する批判的再評価を行った。ヤーコブソンによって示された詩的言語の構造分析をさらに精緻化すると同時に解釈論としての深化を進めるために認知詩学の方法を導入し、これらの試みを通して、詩的言語の類像性研究に新たな分析手法を開発し、分析結果としてテクスト解釈の独創性を導きだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際シンポジウムは、欧州で開催された過去の回よりも参加者が多く盛会で、活発な議論が行われた。論文集を出版するための編集作業が順調に進んでいる。 研究の3項目:[1]音象徴の身体的動機づけ、[2]オノマトペの通言語的構造と特性、[3]詩的言語の構造と特性についても順調に成果が上がっている。 [1]は、代表者と協力者(川原)が人の性格イメージをもとに音象徴を多重モダリティー間の類像性として捉え、学会発表、ワークショップでの招待講演を行ったほか、感情タイプにも応用し、ほぼ計画通り進んでいる。 [2]は、分担者(秋田)が担当し、複数の日本語自然会話コーパス・マルチメディアコーパスの導入により、オノマトペや映像的ジェスチャーなどの類像的記号の使用に関する研究を飛躍的に進めることができた。また、オノマトペ・音象徴や移動表現の類型論に関する複数の国際会議への参加により、本研究の言語理論・研究史上の位置づけを明確にすることができた。この点は、国内外の言語学・心理学ネットワークの拡大・強化にも役立った。これは、当初の計画以上の進展である。 [3]は、分担者(平賀)と協力者(山田)が担当し、主として認知詩学に依拠しつつ「ヤーコブソン詩学の再評価」という視点から研究をおこなった。特に、俳句テクストを具体的データとし、認知意味論で展開されている概念統合理論(conceptual integration theory)に基づいて、形式と意味の類像的関係性が個別テクスト内のみならず間テキストにおいても出現することを示し、解釈の新局面を切り拓いた。しかしながら、当初目標とした詩歌以外の文学ジャンル(小説、広告など)については、データ収集の域を出ておらず、次年度を待つことになった。 以上から、総合的に、本課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度以降は、25年度に推進した[1], [2], [3]の3項目の研究をそれぞれさらに推進し、研究発表を積極的に行う。また、研究組織および協力者を交えた報告会・討議を行い、相互の関連性と統合に向けての意見を交換する。 [1]については、代表者と協力者(川原)が身体的動機づけに関して調音音声学的説明、音響音声学的説明の評価と比較を行い、それらの統合を図る。また、オノマトペ以外の語彙への音象徴の影響を調べる。[2]については、分担者(秋田)がさらにコーパス分析などの手法を充実させるとともに、統計的手法によるオノマトペの構造分析の方法論確立を含めて通言語的研究を推進する。[3]については、分担者(平賀)と協力者(山田)が、俳句をふくむ詩的テクストの分析を中心に論文執筆を加速させると共に、小説や広告などをデータとした分析に着手する。また、協力者(宇野)は、構文にみられる類像性の分析を独自に行いつつ、これが言語の恣意性と非恣意性の理論化にどう組み込まれるかの考察を進める。 最終年度(平成27年度)に成果の公表と普及をめざしてシンポジウムの開催を計画しているが、招待講演を依頼できる研究者との交流を行うため、平成26年度には積極的に海外での国際学会等に参加し、内外の研究者とのコミュニケーションを図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
海外旅費が予定よりも低額となった(格安航空券の利用、また分担者が本務校の学内業務との兼ね合いで国際会議を1件見送ったため)。また外国人招聘に係る経費が一部、立教大学から給付されたため、それによってカバーできた部分は支出しなかった。オンライン実験サイト使用料を予定していたが、研究協力者がすでに契約していたサイトを利用できたため支出しなかった。 26年度は引きつづき研究成果を国内・国際学会等で発表するとともに、最終年度に招聘する研究者とのコミュニケーションが必要になるが、これをより活発に行うため旅費として支出する。課題[3]については書籍が多く必要になるのでそれに充てる。そのほか、代表者・分担者の打ち合わせ会議を密にするための旅費として支出する。
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