研究課題/領域番号 |
25370430
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
瀧田 恵巳 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (70263332)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Origo / 視点 / 物語の人称 / 現前化 / データベース / 国際情報交換 / ドイツ / コソア |
研究実績の概要 |
平成26年度は,平成25年度において得られた成果を発表し,さらに発展させた。 まず学会発表においては,一人称物語に現れるher-とhin-が三人称物語に現れる場合に比べ,文脈上制限されていることを指摘し,Origoと視点及びフィクションにおける「現前化」の観点からその要因の解明を試みた。 まず語り手と物語場面の中心(Origo)との間には,描写の主体と対象間の距離が必要である。語り手は,Origoを担う登場人物が三人称であれば,必然的に人称という隔たりがあるため,物語が過去形でつづられているとしても,目の前で起こっているものとして描写する(「現前化」)ことができる。一方,Origoを担うのが一人称の登場人物であれば,語り手は人称の隔たりがないため,自分自身の過去の体験を語るというスタンスを取らざるを得なくなる結果,「現前化」の実現が難しく,必然的に場面も制限が加わる。が可能であるしかしこの試みは困難を極めた。その原因は,「語り手=Origo」という一般的な固定観念が,非常に根強いものであったことに起因すると思われる。 その後,既に調査済みの三人称物語をさらに吟味した結果,一人称物語ほど顕著ではないが,物語場面の中心を担うOrigoが語り手から隔てられる文脈において,her-とhin-はより多く用いられることが判明した。既存の三人称物語のデータの精度を高めるため,平成27年2月に同文献のデータベース化を謝金により開始した。 以上のher-とhin-の調査結果に加え,平成27年3月以降,日本語の指示詞コソアの意味記述においても人称上の矛盾がみられることが判明した。その原因もやはり「話者=Origo」という固定観念にあることが,現在のところ明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データの分析から導き出された結論は,既に計画した内容を超えており,既存のダイクシス理論における矛盾を解明するのに貢献することが予想される。 データ収集はそのものはあまり進展しなかったが,より精度を増すためのコーパス化について謝金による研究補助を起用した。 また本年度は学会発表及び海外での文献収集を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はデータ収集作業に関して,既にデータ収集を行った文献のコーパス化を継続するとともに,既存のコーパスから一人称物語と三人称物語を適宜取り上げ,データを収集する。手始めにまず三人称物語であるカフカの「城」のデータ収集を開始し,既にデータを収集した三人称物語及び一人称物語と比較しつつ,her-とhin-の分析を継続する。 また,日本語の指示詞コソアについても適宜分析し,「話者(語り手)」と「Origo」を分離することにより,ダイクシス理論上の様々な矛盾を解明できることを提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ収集による謝金の使用が,通常業務のため,やや妨げられたため。
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次年度使用額の使用計画 |
残高は次年度の参考文献に割り当てる。
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