研究課題/領域番号 |
25370430
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
瀧田 恵巳 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (70263332)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 視点 / Origo / her-とhin- / 言語オルガノン・モデル / 人称 / 指示モード / 言語外現実 / 概念世界 |
研究実績の概要 |
本研究は,現代ドイツ語のダイクシス表現her-とhin-の空間的用法を調査し,「どこから見るか」という際の「どこ」に相当する「視点」と主観的定位の中心である「原点Origo」の二つの概念により,ダイクシス理論を再構築することを目的とする。 28年度は,まず雑誌論文「ダイクシス対象の知覚像と非現場的要素の介入」において,27年度までに完成したデータベースにおける会話文のher-とhin-を分析し,その空間的方向が言語外現実として認められつつも,非現場的要素が介入により,抽象化された概念世界におかれること,そして概念世界は容易に現実として認識されることを示した。 その後,雑誌論文「人称と言語オルガノン・モデル」では,ビューラーの言語オルガノンモデルと人称との関連を論じた。ヨーロッパ諸語の影響により,人称は一般的に,話し手を指す一人称と聞き手を指す二人称,それ以外を指す三人称に大別される。一方,日本語の指示詞コソアは,例えば,「これ」「それ」等は,本来人称区分から考えれば三人称であるにもかかわらず,「こちら」などのコ系列は話し手に,「そちら」などのソ系列は聞き手に密接に関連付けられ,しばしば話し手や聞き手そのものを指すこともある。この論文では,概念上の人称と実際の人称表現との矛盾が話し手(「送り手」)と言語記号の叙述内容(「対象と事態」)の違いに由来することを,言語の多面性に関する公理に基づく言語オルガノン・モデルによって明らかにした。 人称と言語オルガノン・モデルの関係を論じる過程で,Origoの二重性をさらに検討する必要が生じたため,学会発表「Origoと言語オルガノン・モデル」では,ビューラーが提唱するOrigoの矛盾が,しぐさなどの言語外のOrigoを「送り手」に,言語によって表現される言語内のOrigoを「対象と事態」に属することに起因するものとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度は,27年度までに完成したデータベースに基づいてデータ分析を行い,また必要な文献を入手・検討することにより,学術論文と学会発表に適当な研究内容に仕上げることができた。 だがその一方で,研究の準備作業に相当する文献調査やデータベース作成作業に従事するための十分な時間を確保することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は,まず28年度の成果ともいえる言語オルガノン・モデルにおけるOrigoの位置づけについての学術論文を完成させる。 さらに最終年度として,これまでの成果を踏まえつつ,最も単純で具体的な段階から抽象的で複雑な段階に至る方向で研究を推進し,集約する。 まず,データベースに基づいてher-とhin-によって叙述される方向を検討することにより,これらの方向を理解するには,なんらかの中心(Origo)とそれを見る視点が不可欠であることを,文献ごとに示し,その多様性と共通点を明らかにする。そのうえで,Origoに関する先行研究と視点に関する先行研究を本研究のOrigoと視点と比較検討する。さらに言語オルガノン・モデルにおけるOrigoの位置づけに,視点を付け加え,本研究におけるダイクシス・モデルとする。 このモデルを用いて,時間と労力が許す限り,以下の課題に取り組む。 まずこのダイクシスモデルを,現場ダイクシス,想定上のダイクシス,テクスト照応,テクストダイクシスを統べる指示モードの観点から論じるとともに,her-とhin-の空間的用法が物語状況を描写する際に多用される要因についても検討する。以上の分析及び考察から得られたモデルに基づくOrigoと視点の融合と分離によって,ダイクシスと文脈照応との関係,および日本語の指示詞コソアの不均衡性について,そのメカニズムを説明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の発表のために文献調査やデータ分析に従事したものの,その一方で,当初予定していた準備作業に相当する文献調査やデータベース作成作業に従事するための十分な時間を確保することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
資料収集及び知見を得るための旅費及び物品費に充てる。
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