本研究は,現代ドイツ語のダイクシス的方向表現であるher-とhin-(話者への方向を表すher及び話者から離れる方向を表すhinを構成要素とし,且つ共通する空間的方向を表す対立語彙)の空間的用法を調査し,「どこから見るか」という際の「どこ」に相当する「視点」と主観的定位の中心である「原点Origo」の二つの概念により,ダイクシス理論を再構築することを目的とする。 平成29年度までに本研究で考案したダイクシスのメカニズムは,まずダイクシスの定位の基準点である「原点Origo」を,言語記述の対象にはなりえない「言語外のOrigo」と言語記述の対象となる「言語内のOrigo」)に分け,これら二つのOrigoをそれぞれビューラーによる言語オルガノン・モデルの「送り手」と「対象と事態」に位置づけた上で,「言語外のOrigo」から「言語内のOrigo」をつなぐものとして「視点」を導入するものである。 平成29年度までは,Langnackerの主観性における矛盾や問題点を解明し解決することができ,海外出張では,本研究が特に対象としているドイツ語の方向表現her-とhin-とLangackerの主観性との密接な関係を確認するとともに,Eichendorffの作品におけるher-とhin-の効果的な多用を指摘する学術研究にも触れることができた。 平成30年度は,前年度までに得られた知見により,Eichendorffの作品におけるher-とhin-の例を検証し,本研究科のプロジェクト論文として発表した。その際先行研究が提唱するOrigoのみによる分析方法ではすべての用例を分析することができないことが明らかになった。さらに佐伯胖の視点論で提唱される「包囲型の視点活動」及び「湧き出し型の視点活動」や、Stanzelの物語理論についてもこのメカニズムを適用する試みを続行している。
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