本研究は、非音素的な音声特徴が第一言語および第二言語としてどのように獲得・学習されるかに焦点を当て、知覚・産出実験、文献調査、および音声コーパスの調査によって、その実態とメカニズムを明らかにしたものである。非音素的な特徴として取り上げるのは、(1)英語における無声/有声環境での母音の長さの差、および(2)英語における歯茎閉鎖音の弾音化である。日本語を母語とする英語学習者が、これらの音声特徴をどのように知覚・産出するかを調べ、日本語、英語それぞれの母語話者のデータと比較検討することを通じて、第二言語学習における母語の干渉のパターンや、音声学と音韻論のインターフェースに関わる知見と様々な洞察を得た。特に(1)においては,英語圏への滞在が3ヶ月未満と3ヶ月以上に被験者群を分けて統計的に分析したところ,3ヶ月未満では母音長が113%であったのに対し,3ヶ月以上では125%と向上した。一般的なネイティブスピーカーの値が150%前後であることを考えると,わずか1学期ほどの滞在で向上が見られたことは英語学習者に対して大きな動機付けを与える結果であったと言える。また,(2)においては,さらに長期の滞在者を含む広範な被験者群を調査し,滞在期間,滞在開始時期,TOEFLスコア(換算値を含む)との相関を分析した。その結果,TOEFLスコアにおいて特に有意な相関が見られた。これは,いわゆる帰国子女でなくとも,総合的な学習によって英語らしい発音に近づくことが可能であることを示唆している。
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