研究概要 |
当初より、初年度はデータ収集に終始し、データの分析は2年目以降に行う予定であった。本研究は、知覚訓練を前提にした研究課題である。そのため、同じ被験者に複数回のセッションに参加してもらう必要があるので、ひとりの被験者のデータを取り終えるのに通常の知覚実験よりも時間を要する。 現在までのところ、異なる知覚訓練の効果を検証するのに十分なデータが集まっていないが、訓練前の知覚実験のデータでは、以下のような傾向が見られた。 実験に用いた7つの母音(FLEECE, KIT, BAIT, DRESS, TRAP, LOT, STRUT)の母音のうち、後続の子音が閉鎖音か鼻音かにより、最も顕著に同定に差が見られたのは、TRAPだった。TRAPは、閉鎖音の前ではLOTやSTRUTとの混同が多いが、鼻音の前では、BAITやDRESSと誤って知覚されることが多くなった。鼻音のうち特に/ng/の前では、その傾向が強かった。このことは、/ng/の前でのTRAPの上昇が、音節末の鼻音/m/, /n/, /ng/の知覚の困難さと重なり、日本語話者によるTRAPの同定を一層困難にしているものと考えられる。 FLEECEが/ng/の前では起こらないため、/ng/の前のKITにも同じ現象が見られると予想されていたが、同定実験でのKITの正答率/ng/の前ではむしろ高く、他の鼻音の前ではDRESSと誤って知覚される傾向が強かった。 母音の弁別実験においては、鼻音の前では、TRAPはDRESS、BAITなどとの弁別が困難になる一方、LOT、STRUTとは弁別が容易になる傾向が見られた。鼻音の弁別実験では、/ng/の前の母音の響きの違いを弁別の手がかりにしていることを積極的に示す証拠は得られていない。
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