(1)成果実績の一つとして,徳之島浅間方言の表層アクセント体系の解釈がある。これまで2型アクセントあるいは3型アクセントという説が行なわれてきたが,私の解釈は多型アクセント,それも全体の形が問題になる4つのパターンと,位置で対立する1つの上げ核からなる特異な体系と見る案である。これはアクセントの類型として初めて報告されたもので,今後さらにいくつかの観点から検証して行く必要がある。 (2)与論島諸方言は,やはりこれまでは2型アクセントないし3型アクセントという説が行なわれていた。しかし,東区方言が昇り核によるPn=n+1の多型アクセントであることは20年近く前に発表し,今回,島内のその他の集落もまた昇り核による多型アクセントであることを明らかにした。その中にあって,Pn=nの体系である茶花方言は,その内部で話者によりさまざまな程度に合流が進みつつある。 (3)喜界島中南部諸方言(中里,坂嶺,上嘉鉄)は,私自身がかつて2型アクセントとしてきたものであるが,3型アクセントとすべきであることを地名や外来語を含む多数の語例で確定させた。いずれも,やはり昇り核を持つ。 (4)複合名詞アクセントにおいてその前部要素単独形との間に広義の式保存が成り立つか否かに関しては,伝統的な方言複合語(以下「伝」)と全国の地名などを前部要素に持つ生産的な複合語(「生」)とで分けると,徳之島浅間方言と与論島東区方言は「伝」では式保存に例外があるのに対して「生」では例外がなく,喜界島中南部方言と与那国島方言はどちらにおいても式保存は成立しないことが分かった。それに対して,鹿児島市方言はどちらも例外なく成立し,岩手県雫石方言では「伝」では成り立つが,「生」では例外が多くなる,という4つの大きな類型が認められ,その位置づけが今後の主要研究課題の一つとなった。
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