研究課題/領域番号 |
25370460
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
鈴木 一史 茨城大学, 教育学部, 准教授 (30635610)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 作文コーパス / 接続表現 / 学習者の内的統語 / 国際情報交換:中国 / 国語科授業開発 |
研究実績の概要 |
本年度の研究は主に「学習者の作文分析」と「教科書教材の分析・授業開発」を中心に進めてきた。学習者の作文分析では、接続表現に着目し、分類調査や頻度調査を行った。その結果、逆接(反対)の接続表現について、中学一年生から高校二年生までの作文では、高校二年生になって飛躍的に増加していることが確認された。なかでも、「しかし」については、中学生段階と比べて、高校一年生から二年生にかけて順調に増加していることがわかった。このことによって、逆接表現を使用することは文章の中に対立概念を必要とするため学習者は高校生にらないと使用しにくいことが読み取れる。 また、順接の接続詞の「そして」と逆接の接続詞「しかし」の使用者をクロス集計すると、ともに独立であることが示された。ところが、「しかし」と「なぜなら」の使用者には統計的に有意な関係性が見られた。これは、「なぜなら」が時間軸から因果律への変換に使われる接続詞であることと関係性があると考えられる。 このような学習者の語彙分析によって、学習者の内面に生じている語彙体系を、学習教材はどのように学習材としての機能を果たしているのか。このことについて、茨城大学教育学部附属中学校の教諭とともに、説明的文章の学習材の分析を行いつつ、授業プログラムを作り、附属での実践研究とした。学習者に対しては、対比表現を見つけさせるとともに、対比概念を理解させつつ、対比的に物事を考えられるよう授業を進め、最終的には対比概念を使って作文を書かせている。結果として、作文の中に対比概念の痕跡が読み取れつつあるが、最終的な分析を踏まえた授業プログラムは平成27年度になる。 作文コーパスを使った分析については、南京大学で行われた国際学会での発表によって、日本語教育にも寄与するところが大きいことがわかってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、母語話者に対する言語教育という視点から、教科書を中心とした教育の影響と使用言語発達のプロセスとを明らかにし、国語科教育を含むすべての教科にわたる学習プログラムの可能性を目指しており、なおかつ、学習者の使用語彙の発達について、国語教育という立場から検証することであり、第二の目的は、その研究成果を踏まえて、実際の国語科教育法を中心として、授業プログラムを構築することである。 まず、「学習者の使用語彙の発達」に関しては、研究成果を解釈学会の会誌「解釈」に論文として投稿し審査の結果、採用された。ただし、この分析結果は、学習者の語彙の一部に留まっており、語彙発達全般を捉えたものとは言えない。しかし、発達プロセスの解明には大きく寄与しているため、研究の達成度は「おおむね順調」といえる。 つぎに、「教科書を中心とした教育の影響」については、教科書教材の中の説明文教材である「オオカミを見る目」について分析し、対比表概念の使用を捉えた。このことが学習者にどう影響するかを、対比表現を捉えた授業展開を附属中学校の教諭とともに構築し、その後の作文にどのように表現されているかを検証した。この結果は、茨城大学教育実践総合センターの紀要に報告しているが、この影響も限定的なものに留まっており、詳細な作文分析は平成27年度になる。その意味でまだ結論が出ていないが、平成26年度の研究実施計画では、実際の授業に資するかどうかを現場の教員に試行してもらうことをあげているため、研究の方向性及び進度としてはおおむね順調と判断される。 また、研究計画として、現場の教員の研究会その他での教育的知見の収集や研究成果の発信という点においては、日本国語教育学会全国大会でのワークショップ、南京大学での国際会議などでの発表等によって、十分な成果が得られている。 以上を総括して、研究の達成度はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究成果を踏まえ、27年度は、作文解析について、一般的な中学生の作文と作文コンクールで入選した作文を比較研究することより、作文の到達的指導目標や言語運用能力についての教育的効果を確認する。そのことによって、教育的効果のある具体的な授業プログラムを提起することが可能となる。授業プログラムについては、引き続き教育現場の教員と協力・協議することで、教育プログラムの方向性について精緻なものとしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の使用額と使用計画は計画通りであるが、平成27年度使用額が生じた理由は、次の2点である。 第一として旅費について、平成25年度の使用において、当初計画していた国際大会が急遽変更になったための平成26年度使用額が300000円ほど生じているためと、参加予定学会が近隣で行われたため100000円旅費に残が生じた。第二に人件・謝金について、作文収集等の謝金を100000円程度計画していたが、平成26年度分は現場の先生方の協力とボランティアによって賄われ、その分平成27年度使用となっている。その他雑費が50000円生じているが、ポスター発表等でのポスター作成、授業教材作成について、修正を加えることを見越してパワーポイント等での発表にしたため残が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
1.平成25年度分の国際学会の発表・参加を平成27年度に使用し、母語としての国語教育と日本語教育を念頭に、コーパスによる言語分析について、本研究の結論を導くための国際学会への旅費に300000円使用する。2.研究協力や授業実践等で小学校や中学校に行き、現場の先生の知見を得ると同時に、授業プログラム実践を共に行う。そのために調査旅費として300000円使用する。3.人件費・謝金として、平成26年度の協力者に対して26本年度と同様の情報提供並びにデータ処理に支払うべき謝金300000円を支払う。4.その他に、発表のためのポスター作成、教材作成のための印刷費・文具等の費用、さらに学会誌等の投稿・印刷費として250000円使用する。5.物品として、データ解析及びプレゼンテーションのための統計ソフトの購入を250000円支払う。
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