今年度は、研究代表者はサバティカル年であり、中国貴州民族大学およびアメリカ合衆国ウェイン州立大学において研究を行った。 まず、貴州民族大学においては、研究代表者の主要な研究対象である貴州省の羅泊河ミャオ語の調査を行ったほか、当大学のミャオ語の研究者の協力を得てミャオ語文法の比較研究を行った。言語調査においては、羅泊河ミャオ語の形容詞範疇の設定に関して新しい知見があった。Dixon 2012は、すべての言語で形容詞範疇が設定できるとしているが、当研究だ評者は、この言語はその例外ではないかという見識を保持していた。今回、述語の主部を形成できる語において、ある種の拡張形式が見られ、それが状態を表す語に限られることから、形容詞範疇の設定の根拠になる可能性があることがわかった。しかし、すべての状態を表す語にあるわけではないので、判定基準として使用するのは難しいこともわかった。 文法の比較研究においては、ミャオ語の関係節形成において、関係節の前置き構造と後置き構造があり、前者はmoA、後者はtaAという標識を持って現れる。この2つの構造の併用が、北部ミャオ語(湘西ミャオ語)と同様であること、標識の形態素は異源であること、さらに後置きの場合の標識は、名詞化標識と捉えることができることがわかった。 ウェイン州立大学における研究においては、当大学の研究者とともに、ミャオ語とミャオ語が所属するミャオ・ヤオ語族の歴史について共同研究を行った。そこにおいては、この言語群がかつて何種類の調音位置をもっていたか、どのような位置であったかという問題について議論を行った。また、最近記述されたMo Piuという言語について、データを入手し、そのミャオ・ヤオ語族内での位置について議論した。
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