研究期間全体を通じては、まず初年度にアイスランド語において形態的関連のある自動詞・他動詞の対応パターンを6つの類型に分類し全般的な記述を行なった。次に個別のトピックに取り組み、次年度にはアイスランド語の自動詞のうち特殊な構文をとる天候表現を中心に研究を行ない、最終年度には自動詞ベースの表現と他動詞ベースの表現が交差して現れる意味領域としての衣類の着脱表現の研究に主として取り組んだ。 最終年度の研究結果は次の4点に要約される。(1) アイスランド語の着衣の表現では、比較的大きい衣類を身に着ける場合、自動詞「行く」を用いて動作の主体が前置詞句で表される着点としての衣類に向かって移動するという捉え方をするパターンと、他動詞「置く」を用いて動作主体の再帰的な行為として目的語の衣類を移動させるという捉え方をするパターンの二つが共存している。(2) 脱衣の表現についても、自動詞「行く」を用いて動作の主体が前置詞句で表される起点としての衣類から出て移動するという捉え方をするパターンと、他動詞「取る」を用いて動作主体の再帰的な行為として目的語の衣類を移動させるという捉え方をするパターンの二つが共存している。(3) 着衣の動作の表現と脱衣の動作の表現に平行性が強く見られるのは、アイスランド語が衛星枠付け言語の性格が強いことに起因する。(4) アイスランド語で自動詞をベースにして「動作主体が衣類の中へ(または外へ)移動する」という意味構造を取ることができることに基づき、先行研究で提案されている衣類の着脱表現の型論論的観点をさらに拡張することが可能である。この研究は自動詞と他動詞の諸問題を扱った論文集である、パルデシ・桐生・ナロック(編)(2015)『有対動詞の通言語的研究』の中の一篇として出版された。
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