研究課題/領域番号 |
25370484
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
荻野 千砂子 大分大学, 教育福祉科学部, 准教授 (40331897)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 琉球語 / 八重山地方 / 宮良方言 / 黒島方言 / 敬語 / 謙譲語 / 指示詞 |
研究概要 |
平成25年度の研究計画の一点目は,南琉球石垣宮良方言の敬語の謙譲語uyoohun(差し上げる)の詳細な文法を調べることであった。調査の結果,共通語の謙譲語とは異なり,補語尊敬用法だけでなく,主語尊敬用法も見られた。この用法は,uyoohun(差し上げる)だけでなく,ssIsarin(申し上げる),kuyoomun(拝顔する)にも認められる。また,sikeehun(ご案内する)が同様の謙譲語であるか調査中である。主語尊敬の用法を持っていると,一人称主語では「私」が主語となるため,自分を敬うことになる。しかし,話者は「自分敬い」はないと判断する。この点は,主語尊敬用法と矛盾する。そのため,「一人称主語の場合は補語尊敬を優先して,主語尊敬用法を抹殺するしかない。この地域は補語尊敬用法専用の敬語がないためである」という仮説を立てた。現在,この仮説を修正しつつ調査中である。また,南琉球竹富町の黒島方言の文法記述も本格的に始めた。石垣川平方言話者や,竹富町西表船浮方言話者にも調査協力をお願いした。 研究計画の二点目は,北琉球語の喜界島では接辞/-eer/の調査を本格化させることであった。調査の結果,聞き手尊敬と主語尊敬の両方の用法を持つのではないかと考えている。 指示詞に関しては,共通語では記憶指示に遠称のア系指示詞を用いて「あの人,どうしているかな」と使用するのに対し,南琉球語では中称のu系指示詞を使うため,指示詞の指示領域の記述を目的としていた。調査の結果,近称のku系指示詞も記憶指示用法で使用できることが分かってきた。また,現場指示用法も調査するため,野外での談話を取った。その談話の中で遠くのものでも近称のku系で差していた。ku系の範囲が,現場指示でも,記憶指示でも共通語の近称のコ系と異なることが,明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
可能な限り時間を工面して現地へ赴き調査を行った。しかし,話者が高齢化していることもあり,突然具合が悪くなったり,身内の不幸があったりして,調査自体がキャンセルになることが何度も生じた。また,座っていると年配者は膝が痛くなることが多く,調査時間も短縮することになり,そのため,予定より調査が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
新しく協力してもらえる話者を依頼中である。少しでも調査の時間を増やす必要があると考える。また,一度の調査が一時間程度に制限されるようになってきたので,調査に赴く回数を増やすことも考えている。 謙譲語の文法調査に関しては,「聞き手」が影響するのではないかと考え,質問票を改良しているところである。謙譲語において,「聞き手」の条件によっては一人称主語の場合,主語尊敬用法が生じて「自分敬い」の状況が生じるのではないかと考える。 指示詞に関しては,現場指示の用法を取るために,野外でのビデオ撮影と談話データの収集を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品にて琉球語の古典資料『おもろそうし』関連の本を購入する予定であったが,いくつかの本が古書店になくて,購入できなかった。このための予算が残ることになった。また,学生が多忙で,予定していた時間のアルバイトを頼むことができなかった。 また旅費に関しては,平成25年度の夏以降,福岡-那覇,那覇-石垣の路線に格安航空会社が参入し,航空運賃が当初の予定していた額より下がった。そのため,旅費が予定よりかからなかった。 『おもろさうし』関連の本は,こまめに古書情報を確認し今年度購入する予定である。また,アルバイトは,学生に早めに指示を出して,データ整理などを頼む予定である。 航空運賃が下がった状況のままであるなら,平成26年度は,現地調査回数を増やすよう計画を立てる。また,ANAが福岡-石垣の直行便を平成26年度は長期間運行するようなので,時間的な効率を考えると直行便の方を利用したいと考えている(直行便の運賃は,今のところあまり変化がない)。
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