本研究では,琉球語と古代語を比較しながら,古代語の文法体系を再構築することを目的とした。主な文法項目は,敬語体系と指示詞体系である。 敬語ではまず,謙譲語の文法を調査した。古代語も南琉球八重山地方も「謙譲語+尊敬語」の二方面敬語が発達しており「主語<補語」のみならず,「主語>補語」の人物関係で使用できる。八重山地方宮良方言での詳細な調査の結果,謙譲語単独でも「主語>補語」で使用できることを明らかにした。その理由として,主語へも尊敬機能があると結論づけた。しかし,主語に尊敬機能があるのに,なぜ一人称主語で言えるのかは明らかにできず,引き続き調査をしている。この結果を基に古代語でも主語尊敬機能がある可能性を模索している。また,丁寧語の文法調査も行った。八重山では丁寧語の形態素がなく,コピュラに尊敬動詞を下接して聞き手への敬意を表すことを確認した。 指示詞文法に関して,宮良方言では現代語のような近称・中称・遠称という距離による区別や人称との連動がないことを明らかにした。宮良方言指示詞はku/u/kaの三体系を持つ。従来「これ,それ,あれ」と解釈されてきたが,距離に無関係で単独の物を指すときに uriが使用できることを明らかにした。対比構造があるとき,両者とも近だとuriとkuri(これとこれ),遠だとuriとkari(あれとあれ)を使用する。場における相対性が指示詞文法の基本である。鎌倉時代には,聞き手領域にある物をアレと指す例があり,相対的遠近という観点から,今後古代語との対照研究を行えることを指摘した。さらに,現場指示用法と文脈指示(記憶指示用法を含む)が,ほぼ同じ理論で扱える可能性も指摘した。これらは,2015年度秋季大会(日本語学会)で発表を終えたばかりであり,今後,論文化の予定である。
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