今年度の科研費の補助により得られたデータに基づく研究の成果は、3つの査読付き研究論文(全てBrillやHarrassowitzなどが出版する海外の雑誌や書籍に発表)と2つの学会発表(全て海外)である。研究とは関連の無い学内の所用を含む諸般の事情から、計画ほどにはフィールドワークには赴けなかったが、図書館の相互貸借を活用して集めた史資料(この収集にも科研費を使った)や過去の年度に行った、限られた回数のフィールドワークからの録音やフィールドワーク先で入手した文献資料などを最大限活用して一定の研究成果を残すことができた。
研究計画に示した通り、論文では明代の資料『回回館雑字』、ヘブライ語表記のブハラタジク語資料、そして録音から得られる音響データを組み合わせてタジク語とウズベク語の母音体系を分析した。その結果、タジク語の母音体系の成立過程については、これまでに知られていなかった幾つかの事実が明らかになった。15世紀のサマルカンドでのタジク語母音体系の『回回館雑字』に基づいた再構や、タジク語母音推移の過程や時期のヘブライ語表記のタジク語資料と音響分析に基づいた推定などがそれにあたる。
研究の主目的であるウズベク語母音体系の成立過程の解明については、上述の論文のうちの1本A late 19th-century Uzbek text in Hebrew scriptがその嚆矢となっている。今後発表を続けていきたい。
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