本研究は、清代に刊行された満洲語と中国語の対訳会話書類を対象として、満洲語の意味や用法から見た清代北京語の語彙・語法面における特徴を考察しようとするものであった。具体的には、『清文啓蒙・兼漢滿洲套話』と『清文指要』に対する文献学的検討を基礎として、それぞれの翻字・翻訳テキストを作成するとともに、満洲語の格語尾や活用語尾、あるいは各種の接尾辞や後置詞と中国語がいかなる対応関係にあるかという角度から、清代北京語の語彙・語法にアプローチすることを目的とした。その成果は以下の通りである。 1)『清文啓蒙・兼漢滿洲套話』についての研究:本研究課題の遂行に先立って、申請者は『清文啓蒙・兼漢滿洲套話』の一テキストである『兼滿漢語滿洲套話清文啓蒙』(1761年刊)について翻字と翻訳を発表したが、本研究課題においては、それを『清文啓蒙』の他系統のテキストと照らし合わせ、すべての異本を取り込んだ形で『兼漢滿洲套話』の校本と満洲語・中国語索引を作成した。 2)『清文指要』についての研究:『清文指要』については、1789年原刊本の系統である『清文指要』・『續編兼漢清文指要』に基づく翻字と現代中国語訳が発表されているが、本研究課題においては、1818年改訂本の系統である『新刊清文指要』を対象として、翻字と翻訳及び中国語索引を作成した。 3)文献学的検討及び言語学的検討:『清文啓蒙・兼漢滿洲套話』及び『清文指要』のそれぞれについて、作者、成立年代、現存する諸版本の系統及びその継承関係等に対する検討を行った。また、それぞれのテキストに見られる満洲語の語尾や接辞と中国語の虚詞を比較して、両者の間に明確な対応関係があることを示すとともに、これら文献における中国語は基本的に満洲語の翻訳として存在していることを明らかにした。
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