本年は最終年度であるので、主に研究成果をまとめるための補充調査を行いつつ、研究成果の修正とデータ分析結果の構築を行った。また、本研究課題を含むユーラシア諸言語研究グループが構成しているConsortium for the Studies of Eurasian Languagesを拠点として、電子媒体による研究成果公表のためのプラットフォーム(HP)を、本研究課題並びに他のアルタイ諸言語研究プロジェクトともに共同で作成した。順次、研究成果を公開していき、さらなるユーラシア諸言語研究の発展につなげていきたい。 今年度の成果をやや具体的に述べると、前年度に引き続き、ルチコフ資料の分析により、その反映しているドルガン語形成過程について具体的な知見を得ることができた。ドルガン語に関するK.M.ルチコフの収集した言語資料で現時点で閲覧可能であるのは1534枚から成るカード式辞書がそのほとんどである。前年度までは、主にこのカード式資料に基づいた分析を行い、今年度も継続して、これに取り組んだ。一方、ロシア科学アカデミー東洋文献研究所での補充調査の折に、ルチコフ資料の大半を占める北部域のツングース系言語(20世紀初頭当時のトゥルハンスク地方のエベンキ語)資料の中に、チュルク系言語の調査記録資料をみることができた。この資料は、「唄」と題した小見出しの下に収録されたもので、全体としてはドルガン語もしくはその基盤となったヤクート語で記録されたテキストであるが、随所にエベンキ語やロシア語の要素など、ドルガン語形成に関与した諸言語に来源を持つフレーズが観察された。内容としては婚礼にまつわる内容であるが、このようなチュルク系言語(ヤクート語)をベースにしながら、異系統言語を含むテキストはドルガン語形成期の記録として大変に貴重であり、3年間の研究成果の一端としても早期に出版する予定である。
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