研究課題/領域番号 |
25370496
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
田辺 和子 日本女子大学, 文学部, 教授 (60188357)
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研究分担者 |
中條 清美 日本大学, 生産工学部, 教授 (50261889)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 格外連体修飾 / 格内連体修飾 / 意味の階層性 / 抽象性 / 具体性 / 固有名詞 / 形式名詞 / コーパス言語学 |
研究概要 |
本研究は、コーパス言語学研究のうち日英パラレルコーパスを使用するという点で、コーパス研究の中でも、先駆的役割を担っている。研究初年度は、国立国語研究所によって作成された、書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)もパラレルコーパス(情報通信研究機構、2003)と併用して、研究対象とした。その結果、名詞の性質によって、被修飾名詞と修飾節内の動詞が格関係を持たない格外連体修飾節(いわゆる外の関係)の形成されやすさが異なることが判明した。その性質とは、辞書的な意味(レキシコン)よりも意味を構成する機能ともいうべき基準である。すなわち、①具体性対抽象性、②一般性対個別性といえる性質である。例えば、固有名詞は、一つの名に対して指示するものは一つである。これに対して、「愛」や「啓蒙主義」という名詞は、指し示すものが目に見えるものとして他人に示す事はできない。また、りんごといえば、果物のある一種類を一般的に示し得るが、「ふじ」となると「りんご」の中でもある特定の品種となる。意味論的に考えれば、意味の階層性というべき名詞の枠組みがある。 この意味の階層性によって、固有名詞は外の関係の格外連体修飾節にはほとんど用いられず、逆に最も抽象的な名詞が「こと」「わけ」などの形式名詞となる。形式名詞の文型は、被修飾名詞がその抽象性において格外連体修飾形の一種といえよう。現在の研究の成果としては、連体修飾節において被修飾名詞の抽象性に着目するならば、固有名詞使用の格内連体修飾節のみから「環境」「におい」など格内連体修飾節にも格外連体修飾節どちらも形成しうる名詞、そして格外連体修飾節しか形成しない形式名詞「こと」「わけ」等の名詞の連続性が認識できるようになったことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度としては、先行研究では語られていなかった名詞の抽象性について、文法に影響を与える名詞の抽象性という性質の存在を浮き彫りにすることができた。これは、格外連体修飾節というのは、被修飾名詞の内容を修飾節が説明するような 関係である(例:すし屋で働いていた男が雇い主を殺した話、では「話」の内容を前節で説明している)。留学生の誤用に着目することによって、被修飾節直前の動詞のヴォイス・アスペクトの正確さに焦点を置いた指導の必要性も認識できた。この結果を踏まえて、名詞の抽象性を基準にした分類を試みている。たとえば、比較的辞書形を多く使用しほとんどアスペクトや助動詞を伴わない構成である修飾名詞節の被修飾名詞としてあげられるのが、例①:「(生きる)権利」「(力を伸ばす)教育」、「している」アスペクト表現を用いやすいのが、例②:「(Vしている)状況」、「した」アスぺクト使用が多いのが、例③「(事故が起きた)結果」、ある特定の助動詞が頻繁に使われやすい名詞、例④「_べき義務」「_たい気持ち」「_ようなうわさ」というように、3~4グループに分類することができる。このような基準のもとに、比較的内容が類似した修飾節と結びつきやすい名詞群をまとめれば、日本語教育に新たなシラバスの提供ができる。 実際問題として、従来の日本語教育では、格外連体修飾形の文産出練習には多くの注意は払われず、読解指導のなかで解釈できれば十分であるという観点で対処されてきた。 留学生の作文が、どうもこどもっぽいという印象が免れないのは、格外連体修飾の使用頻度が低いからであることも一つの原因ではないかと考える。作文も誤用を研究すると同時に、作文上には使用されにくい表現をあぶりだすような調査も必要であろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、課題を二つ設定している。 第一に、格外連体修飾節における代表的被修飾名詞を約20選び出し、被修飾名詞直前の動詞の文法形式(テンス・アスペクト・ヴォイス)に着目しながら、4~5グループに分類する。そしてそれぞれの典型的例文を、まず、書き言葉均衡コーパスから編集する。そして、日本語教育向けに格外連体修飾用例集を作成する。 第二の課題は、日英パラレルコーパスにおいて上記20の英訳部分を調査し、格外名詞修飾節が、どのような英語表現を用いて訳されているか調査する。現段階で予想されることは、英語においては、関係詞節だけでなく of~、with~ 使って名詞修飾句のような表現も多く見られることだ。所有関係なのか、付帯的状況なのかといった区別をつけていくことで曖昧さを排除する方法を取る。英語においては、日本語の格外連体修飾節に相当するのは the fact that__, the idea that__ といった同格のthatと呼ばれる関係節で、使用頻度は非常に少ないし、使用される名詞も多くの場合[fact][idea]の二語に留まるようだ。 では、いったい形式名詞の「わけ」「こと」はどのように英訳されているのか、今後は、本研究重要な部分である、英語表現の分析に力を注ぎたい。多くの場合、この格外連体修飾は相当する英語表現がはっきりと把握できない。英語に訳しようがないという場合において、どのような対処の仕方がされているか、事例を洗い出すことによって考察を深める予定である。
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