近年モロッコを中心とした北アフリカ各地で碑文が発見されたことにより、「ベルベル語は文字を持たない話し言葉である」というこれまでの定説が覆されることになった。これまでティフィナグ文字の存在が明らかにされていなかった現状を鑑みるにあたり、「ベルベル人一般は自らの話し言葉を書き言葉としてどのような方法で書簡に反映したのか」が共同研究の主題であった。2016年3月、スペイン国立カディス大学で開かれた最終的な報告会では、まず各共同研究者が今回の調査を進める上で拠り所とした文献が紹介された。次に各地のインフォーマントを通して得られた様々な調査結果が示された。しかしながらほとんどの研究者の報告で、「統一されたベルベル文字」というものは存在せず、それぞれの地域のベルベル系住民が、自らが話すベルベル語の口語を独自の体系に基づいて、文字として残してきたという結論が導かれた。表記法としては、まずラテン文字によるものが主流で、時にはアラビア語文字によることもあったとの指摘があり、表記の際ににティフィナグ文字を使用したのは、サヘル地方に居住するごくわずかな数の住民であったことも指摘された。すなわちベルベル系住民の間に、ベースとなる文字文化が存在していた事実はないことを確認できたことが、今回の共同研究で得られた貴重な成果である。私はこうしたテーマの一環として、モロッコにおけるベルベル系若者を対象にした聞き取り調査を実施した。その後、調査結果の信憑性を検証する目的で、個人が使用したFacebook や携帯電話などの実際のメッセージを検証した。その結果として把握できた事実は、ほとんどの若者は通信のための話し言葉にモロッコ・アラビア語を使用し、文字盤に表出されないアラビア語特有の発音には、「1」から「10」までの数字を当てはめてメッセージを綴っている事実を報告した。
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