1.ベトナム国内外での調査を通じて、現在のベトナム語南部方言と、1975年まで存在したベトナム共和国で話されていたベトナム語との顕著な差異を指摘することができた。 2.言語音については、90年代初頭まで残っていた母音や頭子音vの異音が都市部においてほぼ消滅したことが明らかになった。人名や地名の表記にも変化があった。カリフォルニア州のベトナム系住民には、旧ベトナム共和国を支持し、現在の体制に抵抗する人々を中心に、これらの音を極めて意識的に使用している人々がいる。自らのアイデンティティを示す上で重要な手段となっているのはもちろん、半世紀のベトナム語の変容を考察するときに興味深い事実である。 3.語彙レベルでは、社会体制の変化による語の消滅、入れ替わり例を具体的に収集することができた。いわゆるサイゴン「解放」後のベトナム語純化運動などによる政策的な変化や、正書法の実質的な変更、さらに、こうした変化に抗おうとする在外ベトナム人の動きを観察し、論文報告した。また、インフォーマントとの日常的なやり取りの中で、かつて好まれた語法や、望ましいとされた話法を記述することになった。ここには統一直後の社会においては退廃的、反革命的と指弾され、忌避された表現も含まれる。しかし、在外ベトナム人コミュニティにおいてはそれを使い続けること自体が自己表現になっている点にも注目した。 4.調査地への研究成果還元を心がけ、カリフォルニア州内のテレビでトーク番組に出演して、研究の様子や意義、成果の一部について話すことができた。
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