本研究課題は日本語学の立場から、平安鎌倉時代に訓点の記入された仏典資料のうち、真言宗において最も重視され、かつ日本語学的、訓点語学的にも最重要と考えられる大毘盧遮那経疏(大日経疏、20巻)に焦点を当て、そこに現れる漢文訓読語の全体像を明らかにし、また、その漢文訓読語の言語的性格(特にいつの時点の日本語を反映しているかという年代性の問題に重点を置く)を分析し、その訓法の伝承の過程を考察した上で、大日経疏の古訓点を日本語史の資料として活用する方法について検討を加えようとするものである。そしてこの極めて大きな言語量をもつ、良質な訓点資料のデータを学界に提供することを通じて、日本語史研究に資することを目的とするものである。本年度は昨年度に続いて、この観点から次のような研究を行った。 1)重要資料の選定 対象とすべき大日経疏の古訓点資料を選定した。 2)訓点資料の原本調査 書誌的なデータを採取し、加点年代等、基礎的な事実を確認した。このために調査旅行を3回実施した。 3)訓点資料の撮影 本年度は昨年度に続いて東京大学所蔵の資料について撮影を実施した。 4)訓点資料の解読 撮影したものを中心に、調査した古訓点資料を解読し、平安時代の訓読の様相を再現するように努めた。 5)訓点資料の分析・検討 個々の訓点資料について、そこに記された言語の性格、特にその年代性に注意しつつ、使用された語彙や語法からその言語が新しいか古いかを判断する作業を継続的に行った。その結果、古い語彙・語法と、新しい語彙・語法が混在することを昨年度に引き続いて確認した。
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