「モゾ」「モコソ」による危惧表現の性質の究明を進め、前年度までの研究成果と合わせて (a)文末用法のみであること (b)真正モダリティ(形式)」に属するものであること (c)「未実現事態危惧」を表すものであること (d)「特定的危惧」を表すものであること (e)被危惧事態の内容は主に人為的なものであること において「モゾ」「モコソ」は共通する一方、両者の相違点として、(f)被危惧事態の深刻性・切迫性においては「モコソ」の方が高い との見解を得た(「モゾ」「モコソ」の表す「危惧」の性質をめぐって(下)」『北陸古典研究』30)。 「モゾ」「モコソ」以外では、前年までの研究でピックアップされた形式のうち複合助動詞「ヌベシ」「ツベシ」についての考察を進め、特に「ヌベシ」の方は危惧の意にある程度傾きを有し危惧表現形式の一環をなす形式であったと見られる との見解を示した上で、(c)「未実現事態危惧」を表すこと (d)「特定的危惧」を表すこと においては「モゾ」「モコソ」と共通する一方、(a´)文末用法以外の用法も有すること、(b´)「疑似モダリティ(形式)」に属すると見られること、(c´)被危惧事態が自然事態である場合においても用いられること 等においては、「モゾ」「モコソ」と異なるとの見解を示した。また「モゾ」「モコソ」や「ヌベシ」「ツベシ」の荷い得ない「既実現事態危惧」「不定的危惧」は、古代語においては主に疑問推量形式が荷っているのではないかとの見通しを得るとともに、危惧表現形式の体系や中世~近世~近現代にかけての消長を解明していく上には、上記のような危惧表現の性質にも留意することが必要になってくるとの展望をも示した(「危惧表現形式の一環としての複合助動詞「ヌベシ」「ツベシ」の位置」『金沢大学人間社会学域学校教育学類紀要』8. 金沢大学学術情報リポジトリ「KURA」でも公開)。
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