標準語に比べて、日本語ならびに琉球語諸方言の述語構造における形態論的形式は豊富であり、一時的出来事か恒常的特性かを表し分ける時間的限定性や、話し手自身が直接目撃(経験)したことか間接的証拠に基づいて推定したことかという情報の根拠を示すエビデンシャリティを表し分ける形式が発達している。これに対して非述語成分である主語や補語における形態論的形式は単純である傾向が見られる。 本年度は国内の諸方言のみならず、南米(ブラジル、ボリビア)の日系移民社会ならびに沖縄系移民社会における日本語諸方言や琉球語諸方言とポルトガル語、スペイン語の接触状況を視野に入れて、形態論的形式との関係の中で、12回の合同研究会を開催して、文構造の変容プロセスの分析を行った。ブラジルおよびボリビアにおいて既に録音し文字化ができているデータを用いるとともに、新たにパラグアイで実施した談話録音(高知方言中心)の一部も参考にした。 文構造の分析においては、形態論的形式との関係のみならず、語彙的形式との関係も重要であることから、5回の合同研究会を開催し、特に標準語における時間的限定性に関する語彙的類義形式の分析を、主語のタイプとの関係を視野に入れた議論を行った。今後の課題としては、諸方言における語彙的形式を、主語のタイプとの関係のなかで分析していくことの重要性を確認した。 これについては、構文論的、形態論的、語彙論的観点から分析を進め、共著として出版予定である。
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