研究課題/領域番号 |
25370520
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
佐藤 栄作 愛媛大学, 教育学部, 教授 (80211275)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 文字 / 書字行為 / 夏目漱石 / 字体 / 表記 |
研究実績の概要 |
2年目の26年度は、漱石の後期代表作である『こころ』執筆100年にあたることから、それに関連させて、明治の「書くこと」についての研究の状況・成果を、漱石にゆかりのある松山から発信することを中心に進めた。 7月20日に、愛媛大学において、本研究の報告会を兼ねた公開講演会を開催した。まず研究代表者佐藤が、「『こころ』100年の年の「書くこと」の研究」と題して、本研究の現状を報告し、次に、東京大学大学院教授の野村剛史氏に「漱石・子規の手紙から」というタイトルでご講演いただいた。野村氏は、明治の言文一致について新たな視点から話され、フロアとの質疑応答も盛り上がり、明治の「書くこと」の研究を松山から発信するという目的にふさわしい講演となった。 前年度は、「書くこと」の基盤としての「字体」についての研究成果を発表したが、26年度は、これも「書くこと」の基盤となる「語の表記とは何か」について私見をまとめることを始めた。国立国語研究所による「現代日本語書き言葉均衡コーパス」によって現代日本語の表記の実態を確認し、そこから明治の「書くこと」へ遡っていくことにした。日本語の表記すなわち「書くこと」についての考えが深まりつつある。 一方、昨年度からはじめた明治の「書くこと」に大きな影響を与えた江戸の「書くこと」についての分析であるが、江戸後期の丸本と江戸女性の書簡・俳人の書簡の輪読会を継続している。それらと明治とのつながりについては、いくつもの有益な情報を得ているが、まだ成果発表には至っていない。前年度入手した明治の手書き資料の分析は、26年度はあまり進まなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
文学研究者とのシンポジウムではなかったが、明治の「話すように書くこと」の解明として、明治に至る日本語の文章・文体の研究で顕著な成果を上げている東京大学大学院の野村剛史教授の講演を、研究代表者の経過報告と合わせて、市民・学生への公開のかたちで実施できた。文学研究者とのシンポは、27年度に実施する予定である。 明治の「書くこと」の基盤となった江戸の「書くこと」についての分析は進めているが、まだ成果として発表するに至っていない。前年入手した明治の資料についても分析がそれほど進んでいない。これは、「日本語を表記すること」そのものに立ち返って、脳内で生じているはずの「表記行動」の始まりについて、自らの考えをしっかりしたものにしておこうと考え、国語研究所の「現代日本語書き言葉均衡コーパス」によって、現代の「書かれた語」の実態を確認しておきたいと考え、それを始めたことによる。やや、回り道になっているが、結果的に、本研究をより深めることになると信じている。
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今後の研究の推進方策 |
江戸から明治への「書くこと」の流れ(継続と断絶)、現代の表記実態から知られる日本語を「書くこと」の特性、こうした基盤的部分をしっかりとさせ、3年目以降は、入手資料の分析(対象はかなり絞らざるを得ない)を進め、松山から成果を発信して行きたい。 3年目は、漱石の松山着任120年の年にあたり、それにうまくつないで、研究成果を市民に還元したい。昨年度は、日本語研究者による講演が中心となったので、3年目は、文学研究者とのコラボをぜひとも実現したい。実は、すでに、近代文学研究者で、作家の「書くこと」について詳しい早稲田大学大学院の宗像教授に講演を依頼し、内諾を得ている。原稿用紙に書くことを中心に、宗像氏と研究代表者とで意見交換する予定である。 以降も当初の計画どおり『道草』『明暗』について、研究代表者の「書くこと」の研究成果と文学研究者などの講演あるいはシンポジウムを実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料収集、資料閲覧のための出張が、予定より回数が少なくなった。資料収集については、対象を広げ過ぎては、分析が間に合わず、かえって成果が得られないということも予想されるので、ある程度慎重にならざるを得ない。また、日本語学会の際に資料閲覧した場合、出張費を本科研費でなく、所属大学の個人研究費によって支出した。このことで、支出が計画より少なくなった。 また、シンポジウムを複数の方をお呼びして開催する計画であったが、お一人を招聘した。この点も支出が少なくなった原因である。
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次年度使用額の使用計画 |
3年目に実施できるかどうか未確定であるが、4年目は漱石没100年、5年目は漱石・子規生誕150年にあたるので、研究成果発表会を、それらに関連させ、少し大きなものとして実施したいと考えている。 大阪、東京への資料閲覧を実施する。また、熊本についてもぜひ実施したい。
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