研究概要 |
平成25年度は、「朝鮮資料」の辞書類のうち、『倭語類解』(上巻・下巻の全2巻)を中心に文献学・書誌学的考察を行った。いまだ学会に報告されていないThe John Rylands University所蔵本『倭語類解』を始め、韓国国立中央図書館所蔵本『倭語類解』、そして東京大学言語学研究室小倉文庫本『倭語類解』(上巻のみ)という、三種の異本の存在を確認した。 現在、現地調査の際に入手した複写本を使って異本『倭語類解』のデータベースを作成しているが、まず異本間における異動について照合作業を実施するなど書誌問題の解決に主力している。同時に『倭語類解』を代表とする「朝鮮資料」の辞書類における表記システム、つまり朝鮮語文字のハングルを用いてどのように中・近世日本語を表記したかという転写(transcription)システムに関する問題も念頭において、仮名・ハングル表記の対応表を作成している。 この時、当時朝鮮で編集された他の辞書として多言語辞書『方言集釈』、『三学訳語』との比較・検討が必須となる。中でも『三学訳語』(1789)は李義鳳によって編纂された多言語辞書で、収録された日本語の見出し語2,678 語の中で発音説明を有する語彙は1,755語に及ぶ。本書の日本語は『倭語類解』を底本にして、本文の相当部分を参照しながらも、部門立て及び発音説明において相異な記述が若干見られる。 特に『三学訳語』の編纂には『倭語類解』以外にも朝鮮通信使による日本見聞録が参照され、『日本寄語』を始めとする中国文献も使用された。そのうえ『三学訳語』の日本語の中には、単に引用書の内容に全面的に依拠する記述だけでなく、李義鳳によって独自に記述された部分があること、また編者が日本語を採録する過程で日本に関する総体的な記述を試みたという点で注目される。
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