沖縄民謡、奄美民謡、宮古民謡、八重山民謡について、前年度に引き続き、歌詞テキストの収集と歌謡語彙のデータ入力を進めた。実際の歌謡音声とのリンクについては達成できなかったが、ソフトウェア(エクセル)と音声とのリンク方法の確立については一定の成果を得た。また、実際の歌謡音声のみならず、歌詞の朗読の音声とのリンクも模索した。 沖縄民謡の語彙については、単語の認定や品詞分解、活用形の表示を進めた。その際、『沖縄古語大辞典』や『沖縄語辞典』の見出し項目や文法説明の項目を参照にした。その結果、日常語(口語)の沖縄語とは異なる歌謡語(文語)としての沖縄語の実態が明らかとなった。すなわち、日常語では見られない助詞「ユ」(~を)の使用が広く見られることや、助詞「ヤ」(~は)の融合があまり見られないこと、歌謡語独特の終助詞があることや、沖縄語の日常語ではあまり見られない連用形中止の用法(~し、~)がしばしば現れることを示した。また、「ミル」(見る)、「チク」(聞く)のような標準日本語とほぼ同じか、音変化だけを経たのみの形も多く見られた。 奄美民謡の語彙についての分析も開始した。奄美民謡語彙における動詞の活用形においては、破擦音化した音がさらに摩擦音化している姿が見られた。例えば、「ダチュティ」(抱いて)が「ダシュティ」。「ナチャル」(生んだ)が「ナシャル」といった音変化である。こうした変化と日常語との地域的分布との対応を考察した。奄美民謡のみならず、宮古民謡と八重山民謡の歌謡語としての分析は未だ十分に進められておらず、今後の課題となっている。
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