四肢を備えた二足歩行ロボットは、人手で教示するか、運動立案(motion planning)をプログラム入力することで各種の動作を実行することができる。動作の実行は、運動立案という一種の行列表でロボットに入力され、それにより関節を模擬する各個のサーボモータが時系列的に作動し、動作に必要な各部分の動きを起こし、要求される全体動作を構成する。本研究では、「腕立て伏せ」に代表される運動を根付きの木表示として表すことができた。この木は関節を節点とするグラフ構造をもち、始点を胴体の中心部に仮定し、この接点を起点として支配関係で各接点(関節と端点)間を結んだ形をしている。この支配関係は関節(サーボモータ)間の「ある関節が別の関節或いは端点を動かせしめる」という運動使役関係に基づく[過去の研究]。運動の埋め込み構造に着目し、それを生成できる回帰的規則を含む書き換え規則群を決定した。運動の時系列の各区間毎にこれらの規則が導出する分析木は、必要な運動指示を各サーボモータの角度変化として、使役を表す述語Cの支配下に表す。一つ一つの木の終端連鎖は一種の「文」構造を表す。これらの「文」の連鎖が運動全体の立案を表示することになる。個々の木が表示する終端連鎖は(正則文法によって導出される)正則表現であることが明らかになってきた[H24,25年度の研究]。その後の形態素分析関連の文献研究によると、各木構造の終端連鎖は、文ではなく、その記号列の単純性から、むしろ語構造なのではないかという判断が強まっている。すると、木構造を成す語を継時的に繋いだ連鎖の全体構造が、文構造を目指す「プロト文」ではないか、と考えたくなる。この「プロト文」には、現代のヒトの言語がもつような非対称的で意味単位を組み立ててゆく構成素構造がまだ見当たらない。そのような意味でも、この動作文法は言語進化を示唆する証拠となりうる可能性がある。
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