研究概要 |
本年度は日本語の動詞重複構文について研究し、論文をまとめ、学会発表を行った。 日本語では「ねえ、チョムスキーの講演会、行った?」という問いに対して、「うん、行ったよ。」と答えるのと同じように、「うん、行った行った。」と答えることができる。このような動詞重複構文の特性を記述し、統語的な分析を試みた。 音韻的に長い動詞の重複はあまり好まれないが、基本的にはどのような種類の動詞についても重複が可能であることから、この構文は生産的であるといえる。重複されるのは時制を持った動詞であるが、補文標識も含めての動詞の重複は不可能である。この構文は主節現象であり、埋め込み文では生起できない。命題が確かに真であるということが強調される場合と、動作や状態の程度が強調されたりする場合の2通りの解釈が可能であるが、いずれも主節でしか起こらない。 このような特徴をとらえるために、Speas and Tenny (2003)等にならい、主節のCP領域にSpeech Act Phraseという談話的な機能を果たす範疇の投射を仮定する。叙述文においてはSpeech Act Phraseの主要部SAに音韻的に具現化されない叙述マーカーが存在し、そのマーカーのもつ焦点素性によって動詞の主要部移動が引き起こされると考える。この分析においては、動詞重複構文は、動詞が元の位置と移動先のSAの位置の2カ所で発音されることによって得られる、ということになる。 同様の移動のコピー理論に基づいた分析はMartins (2007, 2013)がポルトガル語の動詞重複について提案しているが、本研究ではこの構文をSAという機能範疇と関係づけ、統語的な動詞繰り上げが日本語にもあることを示した。
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