研究課題/領域番号 |
25370544
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石原 由貴 東京工業大学, 外国語研究教育センター, 教授 (40242078)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 疑似分裂文 / 省略 |
研究実績の概要 |
本年度は「太郎がしたのは本を買うことだ」のような動詞句を焦点とする日本語の疑似分裂文の特性について研究した。 まず、前提を表す部分「太郎がしたのは」の表す意味に着目した。「太郎がしたのが」のように、ガ格でマークされた要素が文の一部として現れた場合には、平叙文の一部が省略されていると解釈することができる。一方で、「太郎がしたのは」と話題のマーカー「は」をともなったものが文の断片として単独で生起した場合には、平叙文の一部省略として解釈することが難しく、疑問文の省略としてしか解釈できない。この事実は、「は」のもつ情報構造上の特性から説明が可能であり、この観察は、疑似分裂文の前提を表す部分は疑問文であるという、従来からRoss(1969)らによって立てられてきた仮説を支持するデータであると考えることができる。 上記のことから疑似分裂文が疑問文とその答えという2つの文から成り立っていると考えると、「太郎がされたのは財布を盗まれることだ」と比べて「太郎がされたのは財布を盗むことだ」の容認度が落ちるという例のように、前提部と焦点句に能動態どうし、受動態どうしが現れなければならないという態の一致の現象の説明が可能になる。疑似分裂文の焦点句においては、主語等の省略が行われるが、省略においては一般的に平行性が保たれることが知られている。疑似分裂文における態の一致は、「太郎がされたのは?」「財布を盗まれることだよ」のような疑問文と省略的な答えとの間に見られる態の一致と同様、省略における平行性の効果の一種と見なすことができる。 このように、日本語の疑似分裂文に見られる平行性について、疑問文と省略を含んだ答えのペアという視点から新たな提案を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は動詞句を焦点とする疑似分裂文に研究の対象を移して研究を行った。日本語のデータから、疑似分裂文を疑問文とその答えから導くという派生の提案に新たな証拠を与えることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
学会発表で得られたフィードバックを元に再検討し、動詞句を焦点とする疑似分裂文の派生と、そこに見られる平行性の効果についてさらに掘り下げて、論文にまとめたい。計画では話題化についても取り上げることにしていたが、もう少し疑似分裂文や昨年度まで見ていた述語重複構文のような焦点化の関わる構文の特性を考えていきたいと思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍の納品が間に合わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に書籍を購入する費用に当てたい。
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