最終年度である平成27年度は,I言語研究のための資料としてのコーパスデータという観点から,コーパス研究に関わる様々な用語・概念の整理を試みた。「コーパス研究のパラダイムと言語モデル」では,主に,Leech (1992) の挙げる3つのパラダイムを基に,現在のコーパス研究におけるパラダイムについて検討した。また,コーパス研究で「言語能力」「言語運用」「I言語」「E言語」などの基本的な用語が誤った意味で用いられていることが少なくないことから,Chomsky (1965),Chomsky (1986) での用語の意味を踏まえ,言語能力と言語運用,言語知識の内容,言語能力・言語運用と言語の社会性など,コーパス研究において見られる言説について整理した。「確率」「確率(論)的」等の用語は一見曖昧性のない用語のように思われるが,コーパス研究論文では異なる意味で使われることがあり,生起確率による予測の問題と現象の原因の区別,文法性と生起確率,習得可能性などの観点から整理を行った。「経験論・合理論」については,研究対象と研究者,言語習得の問題,言語知識の範囲と内容の問題,言語研究の問題,研究資料の問題に分け検討した。 これらの内容の一部を収録した論文は,英語コーパス研究シリーズ第7巻『コーパスと多様な関連領域』(ひつじ書房)および『コーパスからわかる言語変化・変異と言語理論』(仮題,開拓社)に掲載される予定である。また,前年度までの検討内容を踏まえ,2015年4月に英語コーパス学会シンポジウム「コーパス関連専門科目の授業内容について」において「コーパス研究の一方法論と情報教育としてのコーパス研究教育」と題しコーパス研究教育に関する発表を行い,成果の一部を公開した。
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