研究課題/領域番号 |
25370550
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
杉崎 鉱司 三重大学, 人文学部, 教授 (60362331)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 動詞句内主語仮説 / 母語獲得 / wh疑問文 / 否定 |
研究概要 |
本研究は、極小主義に基づく統語分析を踏まえ、英語獲得初期における幼児の句構造の性質を、自然発話コーパスの分析を通して明らかにすることを目的とする。 2013年度は、先行研究(Deprez & Pierce 1993)において提示されている、幼児の句構造においても「動詞句内主語仮説」が満たされているという証拠の妥当性について再検討した。Deprez & Pierce (1993)は、幼児英語に見られる“No Leila have a turn.”のような発話を分析し、幼児の句構造においても「動詞句内主語仮説」が満たされていると主張した。彼らによると、英語を獲得中の幼児は、notとnoを区別せず、notだけではなくnoを文否定の要素として用いる。上記の文では、noよりも構造的に低い位置に主語が現れているため、その構造的位置は、述部内に存在する基底生成位置であると考えられる。 Merchant (2006)の比較統語研究によると、“Why not?”に相当する表現は言語間変異を示す。英語などでは“Why not?”に相当する表現のみが許容されるが、逆にギリシャ語などでは“Why no?”に相当する表現のみが許容される。もし英語を獲得中の幼児がnotとnoを基本的に同じ要素として扱っているのであれば “Why no?”という誤った表現が観察されるはずである。このような誤りが観察されるか否かを、CHILDESデータベースに収められている英語を母語とする幼児の自然発話コーパス7名分を分析することにより調査した。その結果、これらの幼児が、“Why not?”という表現を用いる一方、“Why no?”という誤った表現を用いることはないことを明らかにした。この発見は、英語を母語とする幼児がすでにnotとnoを区別しており、前者のみを文否定を表す要素として用いていることを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2013年度内に、CHILDESデータベースに収められている英語を母語とする幼児の自然発話コーパス7名分を分析することにより、英語を母語として獲得中の幼児が、Why not?という表現を用いる一方で、Why no?という誤った表現を用いることはないという事実を明らかにし、それにより「noが文頭に置かれた文では主語が動詞句内に留まっている」というDeprez & Pierce (1993)の主張に明らかな問題を提起することができた。この成果については、すでに国内での学会発表を実施済みであり、それに加えて、国内の出版社から出版される論文集にも掲載が決定しているため、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究が当初の計画以上に進展していることを踏まえ、今後の研究においては、扱う研究テーマを発展させることを計画している。具体的には、当初の研究テーマであったWhy not?疑問文の獲得およびyes/no疑問文の獲得に関する調査を継続して実施することに加え、助動詞doを含む否定文の獲得に関する調査も実施する。幼児の自然発話コーパスを用いて、助動詞doを含む否定文に関する誤りを調査し、極小主義で提案されている「CからTへの素性継承のメカニズム」に対して、英語獲得の観点から検討を加える。
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