研究課題/領域番号 |
25370551
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡田 禎之 大阪大学, 文学研究科, 教授 (90233329)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 語彙概念拡張 / メトニミー / メタファー / 語彙化 / 慣習化 |
研究実績の概要 |
当該年度は、まず前年度から継続している調査内容を論考としてまとめ、イギリス認知言語学会において口頭発表を行った。語彙概念拡張がどのように定着していくのかを考える一つの試論として、「拡張語義がargument用例に端を発し、慣習化していくことで、単語の独立義と認識され、adjunct位置においても利用されるようになっていくという意味拡張の方向性が生産的なものとして認められる」のではないかと考え、この仮説を支持するための調査として、以下の2つの観察が妥当であるかどうか、辞書の記述内容を比較検討することで調査を行った。 (A) argument/adjunct位置ともに確認できる拡張義が、argument位置においてのみ確認できた拡張義よりも語義としての定着が進んでいるのであれば、前者の辞書記載率は後者よりも高くなると考えられる。 (B) argument/adjunctでともに確認できることが、語義の定着と相関しているのであれば、使用頻度の高い拡張義であることが、辞書記載率を上げるファクターとして重要なのではなく、使用頻度の少ない語義であっても、argument/adjunctにともに確認できた語義は記載率が高くなると考えられる。 これらの2点については、英語および日本語におけるコーパスでの拡張義の分布状況と、それらの拡張義がどの程度辞書において当該の語彙項目の意義として記載されているかを比較検討することで、また統計処理を行うことで基本的には妥当であると考えられることを結論づけ、『認知言語学論考』に論文として公表した。 更にこれに続く調査内容として、文レベルにおける項位置と付加詞位置における非対称的な意義の分布が、word combinationレベルにおける、主要部位置と限定修飾要素の位置に関しても並行的に認められるのではないかと考え、その調査のための基礎的なデータ収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
拡張語義の変化、定着の道筋という側面に関しては、当初想定していた歴史的な側面からのアプローチではなく、むしろ辞書における記述内容や、文レベルに限らずword combinationのレベルにおける分布状況などを調査するという手法によって少しずつ明らかになってきていると考えられる。意味変化の端緒がどこにあるのかを具体的に特定することは非常に困難であり、いずれにしてもデータ蓄積の上から間接証拠に基づいて推論していくしかないものであるが、そのための証拠は少しずつではあるものの着実に集積されてきていると思われる。 今後も、歴史的なデータの収集を行うと同時に、その他の側面からもこの問題にアプローチしていくことができないかどうかを考えていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、意味拡張の道筋として、文レベルにおける項位置にやはり端緒があると考えているが、この位置は名詞に対して修飾要素からの限定内容や、述語からの選択制限が与えられうる位置であり、しかも文の中心的参与者であることから、適切な意味解釈を得るための処理労力が費やされるにふさわしい位置であると考えられる。拡張意義を割り出すための補足的な情報が豊富に存在し、かつ処理労力を掛けるに値する参与者であるなら、新たな意味を獲得するには理想的な環境が整っていると考えられるからである。 これに比べると付加詞位置やword combinationにおける主要部の位置は、述語要素からの選択制限などを与えられる環境にはない要素であり、その分だけ拡張意義の解析にとってヒントとなる意味情報は少ないと考えられ、word combinationにおける限定修飾要素の位置は、後続する主要部要素の意味を限定するための要素として機能するのみで、自身が他者によって規定され意味情報を付加される側の要素ではないこともあり、また構造的に見ても周辺的な要素であると考えられることから、拡張意義の解析は困難になっていくと考えられる。 これらの環境には、現在のパイロットスタディーによれば、拡張義のバリエーションに関して段階性が認められるようであり、拡張義が浸透していく一つの方向性が認められるのではないかと考えている。今後もパイロットスタディーに引き続いて、データ数を増やす、英語以外の言語の事例について調査を行う、といったことから調査を継続していきたいと考える。 もし調査内容が予期する結果になるのであれば、拡張義発展の一つの道筋を提示することができるようになるのではないかと考えている。
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