研究最終年度にあたる今年度は,井上・西垣(2017)及び井上(2018)において以下の点を明らかにした。井上・西垣(2017)は,英和辞典編集におけるコーパスの示す科学的データと学習性・商品性との両立について議論したものだが,当申請に関係ある部分を抜粋し加筆した「コーパスを活用した学習英和辞書編集の問題点 ―科学的データと学習性の両立―」を,井上(2018)として印刷準備中である。コーパスを活用したシノニム・語法研究の成果を,いかにターゲットユーザーのレヴェルを配慮した規範性・記述性へと昇華してゆくか,コーパス言語学や理論言語学の辞書編集における関わり方を検証しながら,理論言語学の過度な一般化の弊害などにもふれた。また,コーパスから洩れ落ちる日常生活語彙に関する語法研究については相変わらずフィールドワークが欠かせないことも指摘した。 井上(2018)は,学習英和辞書における副詞記述に,シノニム・語法研究の成果がどのように活かされているかを副詞に焦点を当てて示した。従来は動詞と主語や目的語となる名詞について問題とされることの多かった選択制限であるが,副詞と動詞や形容詞・副詞との選択制限をどのように効率的に分析記述してゆくか,副詞reluctantlyとwildlyを例に,統計値の中でも特にMI-scoreの有効性について示した。次に,putなどの多義語を記述する際に,必須の副詞相当語句を検証することで対応する日本語訳の多様性を提示することが可能になることを示した。また,enough as it isを例に定型句抽出の事例を,especiallyとspeciallyを例にシノニム・語法記述の例を示した。さらに,very muchと共起する動詞と生起位置,文体離接詞を構成するenough,共起する副詞を分析することで動詞chooseとselectのシノニム分析する手法を提案した。
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